PRECURE SQUARE solo>#01Bパート
S-5, S-6, S-7


◆ ◆ ◆ ◆ Bパート ◆ ◆ ◆ ◆


Scene5◆ゴシップ

「ありがとうお父さん。お仕事がんばってね。」

 ぽっぷが急いで廊下に出ると、岩戸は再び固く閉ざされた。仕事を終えるまで開かれる事は無いだろう。……いや、トイレに行く時なら開くかな?

 ぽっぷは廊下で腕を組みながら考える。

「送り主の『エルピス』の意味は希望ってことは、あの荷物は『希望の贈り物』ということかなぁ? だとしたら、『チカラを望むなら、風の衣をまとうべし。』は、希望をつなげたければ『風の衣』を着なさいと言ってることになるよね。でも……荷物に服なんて入ってないんだよなぁ。
 カードケースのウラノスが『天空』を意味するってことは、もしかしてカードケースが『風の衣』に関係しているのかな……。やっぱりこれだけじゃ判らないよ。」

 ぽっぷが自室に戻ると、何故か丸めた新聞が部屋中に散乱していた。
 まっ、まさか! 証拠隠滅を図る闇の組織の仕業かっ!? ……なんてことは無いか。
 そういえば、荷物の中身を出す時に、梱包材代わりの新聞紙をぶちまけていたんだっけ。
 ぽっぷは丸めた新聞を拾っては、謎が詰まっていた段ボール箱に投げ入れていく。ぽっぷの抜群なコントロールで、新聞の玉は不規則に回転しながらも次々と箱に吸い込まれていった。見事に百発百中である。全ての新聞を段ボール箱に放り込み、最後に手にしたのは、荷物を開けた時、記事を確認しようと広げた新聞だった。美空スポーツか…。これもまたクシャクシャに丸め、箱に投げ入れようとするが、ふとトップ記事が気になって、ぽっぷは再び新聞を広げる。
 見出しは『美空市上空にフライングホース現る!!』であった。

●フライングホース
その名の通り「空飛ぶ馬(型飛行物体)」のことである。2005年にイタリアはミラノで撮影され、日本でも人気を集めているという。いいよね。夢があって…。

 空飛ぶ馬が美空市上空に現れたというのだから、新聞のトップ記事になるのも当然だろう。少なくとも、美スポ的には。ただし、トップページに大きく載せられた『決定的な写真』とやらは、確かに馬のように見えたが、写真の解像度が低く、ピンぼけも激しいために、信憑性がまるで感じられなかった。気になる点があるとすれば、ミラノの動画とは違い、ペガサスのように背中に翼らしき物があるくらいだろうか?
 ぽっぷは妙な違和感を感じた。何か見逃しているような気がする。

「あれ? もしかして……この新聞って……」

 ぽっぷは段ボール箱からクシャクシャに丸めた新聞を1つとると、破らないよう丁寧に広げる。それは全国紙だったが、美空市の記事も載る地方欄だった。日付で昨日の朝刊だとわかる。ぽっぷは1つ1つの記事を確かめていく……。

  • 『しおちゃん鉄道 廃線の危機』…ヤバいじゃん。
  • 『毒餃子 美空市でも被害?』……コワイじゃん。
  • 『大寒も投げ飛ばす ちびっ子相撲』………ふ〜ん。
  • 『太陽電鉄美空駅に 美空遺跡コーナー』……………へぇ〜〜。

 ぽっぷの目が止まった。

  • 『スクリュー壊れた密漁船 美空湾を漂泊の後 逮捕』
    1日午前3時45分ごろ、美空湾を漂流する密漁船を、警戒中の美空海上保安部の巡視船が発見。美空港にえい航した。船には大量のアワビやナマコを入れたかごや袋を載せており、男らのグループは密漁を認めたため、同保安部は漁業調整規則違反(無許可での潜水器漁業)の現行犯でグループ10人を逮捕した。一晩でナマコなど500キロを捕っていた。
    密漁船はスクリューが付け根から破損しており、航行は不可能になっていた。犯人グループは「人魚に襲われた」と証言している。

 人魚に襲われた?
 人魚に襲われた?
 ええええっ? 人魚に襲われた?

 ……いや、いやいやいや、鵜呑みにしてはいけない。記事には『証言』としか書いてない。つまり、犯人グループの『言い分』あるいは『言い訳』であって、何ら裏付けは取れていないのだ。
 裏付けは取れていないとはいえ……。美空市上空に天馬……。美空湾に人魚……かぁ。もしかして、他の新聞にも何かあるのだろうか? ぽっぷは他の新聞も全て広げてみる。

  • 『市街に金色の獣出現!!』…
  • 『行方不明の少女達、異世界から生還!!』…
  • 『怪奇!モノノケ娘!痴漢を撃退!!』…
  • 『これが人面鳥だ!!』…
  • 『美空高原にかまいたち?』……

 驚いた。記事の大きさは大小さまざまだが、どの新聞にも美空市内で起きた怪事件や怪現象の記事が載っていたのだ。これが偶然のわけが無い。間違いなく手がかりだ。
 ただし、新聞のほとんどは美空スポーツである。記事の信憑性は無いに等しい。なにしろ、事件の舞台に住んでいるぽっぷ自身が事件を何も知らないのだから。

 それにしても手が込んでいる。梱包材として入っていた新聞紙が、実は偽装された手がかりの1つとは……。だけど、これはどういう事だろう? 普通なら気付かずゴミとして捨ててもおかしくない。ぽっぷだって危うえかったのだし。エルピスを名乗る送り主は、ぽっぷの興味が尽きないよう随所に仕掛けを施し、知的好奇心を刺激し続けている。しかし、ぽっぷが気づかなければ、手がかりは永遠に消失し、二度と手に入らないのだ。
 謎を解くだけの能力があるか、ぽっぷを試している? どこかへと誘導しているのだろうか?
 これは事件の謎を追う『エルピス・コード』ではなく、お宝探しのナショナルならぬ『ミソラ・トレジャー』なのかも?


Scene6◆逃げちゃ、ダメ

 『希望』を名乗る贈り主。『天空』のカードケース。そして新たな手がかり、信憑性の無い『怪事件』。これらの手がかりから『チカラを望むなら、風の衣をまとうべし。』を読み解くと、見えてくるの…。それは………。

「あっ!」

 突然、ぽっぷから笑顔が消える。そしてベッドに飛び込むと、恐怖に引きつらせながら枕に顔を埋めた。推測の域は出ない。裏付けも無い。根拠も乏しい。だけどぽっぷの勘が訴える。導きだされた答えが正解だと。ぽっぷにとって最悪の答えこそが事実だと……。
 突然、脳裏に忘れかけていた言葉が浮かぶ。ぽっぷを苦しめ続ける呪いの言葉が……。
 ぽっぷは枕に顔を埋めたまま頭を抑え、沸き上る言葉を打ち消すかのようにつぶやく。まるで呪文を唱えるように。

「ワタシは私だよ! 人間の普通の女の子だよ! 春風家の次女、春風ぽっぷなんだから!!」

 ぽっぷが『普通』を装っていたのは、誰にも邪魔されずピアノに専念したかったからだ。
 ……少なくとも、ぽっぷの過去を知る者には、いつもそのように説明してきた。
 だけど……本当の理由は別にあった。
 人に話せない本当の理由……。ぽっぷは『普通』で無くなる事を心から恐れていたのだ。

 6年前のことになる。
 当時小学5年生だったお姉ちゃん達が美空小野球部に助太刀で参加し、他校と練習試合をすることになった。試合にはメンバーが9人必要だが、どうしても1人足りない。そこで数合わせに小学1年生のぽっぷが加わる事となった。そこまでなら……まあ、よくある話だろう。
 問題は、4つ以上離れた年長者達に囲まれながら、ぽっぷが遜色の無い活躍を『してしまった』事である。しかもぽっぷが野球をしたのは、その時が初めてだったのだ。

 幼いぽっぷはいつも張り切っていた。みんなが喜んでくれるのが楽しくて…。みんなが褒めてくれるのが嬉しくて…。
 『ペンタローが行く!』でも、兄のペンタローはドジで、弟のギンジローはしっかり者だったから、お姉ちゃんがドジっ子で、自分がしっかり者であることに、何ら違和感は感じなかった。むしろ姉妹のバランスが取れていた。ぽっぷにとり、背伸びするのは当たり前。4つ年上のお姉ちゃん達と肩を並べるのは『普通』の事だった。
 だけどあの時、ぽっぷのファインプレーに驚くお姉ちゃん達を見た時から、ぽっぷは自分自身に違和感を感じ始めた。確かにぽっぷは天才少女である。しかし1年生と5年生では、背伸びをした程度では埋めようの無い身体能力の差がある。『天才』でも『しっかり者』でも越えられない壁があるはずなのだ。         

 なのに……何故?

 初めての野球なのに、何故コントロールは定まるのだろう? 初めての野球なのに、何故グローブはキャッチできるのだろう? 初めての野球なのに、何故バットに当たるのだろう?

 あの時も幼いぽっぷは、いつものように張り切っていた。みんなが喜んでくれるのが楽しくて…。みんなが褒めてくれるのが嬉しくて…。
 すると不思議なことが起きた。ぽっぷの頑張りに応えるかのように、身体が自在に反応したのだ。練習試合の最中、ぽっぷの中で『何か』が起きていたのだ。
 頑張れば頑張るほど、心や身体が解放されていく感覚……。何もかも超越してしまいそうな、妙な心地の良さ……。そしてぽっぷは気付いてしまった。自分が普通ではない事に。そして誰にも言えない不安を抱くようになった。自分が消えていくような、自分が自分でなくなるような、漠然とした不安を。
 それ以来、心の底から沸き上る不安が『呪いの言葉』となって、ぽっぷを苦しめ続けるようになる。

 ワタシはダレ? ワタシは人間? ホントに春風家の子なの? ……と。

「ピアノに……夢中になるまで取り組めて、やっと忘れかけてきてた所だったのにナ……。」

 ぽっぷは顔を上げると仰向けに寝転んだ。天井を見つめながら自分に問う。

 私は何を恐れているの? それは……大切なものを失う事だよ。

 じゃあ、私にとって大切なのは何? 自分自身? 知の探求? 家族の絆? どれも大切だけど、今一番大切なのは、やっぱり家族の絆だよ。学業も友情も後回しにしてピアノに専念しているのも、全ては家族の絆を優先していたからだもの。自分が自分でありたいと望むのも、自分が自分でなくなったら、絆も一緒に無くしてしまうかもしれない。…そんな不安があるからだもの。

 だったら探偵ゴッコはここまで。荷物も捨てて、キレイさっぱり忘れちゃいなよ。だめだよ! 
こんなところで逃げたら、ハナちゃんに笑われちゃう! 
私は逃げちゃいけないんだよ! だってもう中学生なんだから!!

 5年前の事になる。
 ぽっぷはお姉ちゃん達と共に、運命の選択を迫られた。どちらかを選び、どちらかを捨てねばならない、究極の選択を迫られたのだ。だが、当時のぽっぷは小学2年生。8歳の幼女には重すぎる選択だった。結局自分では何も決められず、お姉ちゃん達に同調する事しかできなかった。ぽっぷは逃避したのだ。そしてプニュちゃんも、パオちゃんも、そしてハナちゃんも……。選択できなかった大切な人たちは、ぽっぷの前から消え去ってしまった……。

 あの時の選択は、間違ってはいなかったと思う。いずれ家族とは離ればなれになるにしても、まだ先の事だと思うから。ただ、自らの意思で選択せず、逃げ出してしまった事は今でも後悔している。あの時ぽっぷは確かに幼かった。だけどハナちゃんはもっと幼かった。なのにぽっぷは、選択から逃げた事で、『罪』や『責任』からも逃げてしまったのだから……。

 このまま逃避して、何事も無かったかのように生活すれば、普通の女の子として生きていけるかもしれない。何もしない、何もできない、大した存在価値もない、社会のエキストラとして……。それもまた、人生なのだとは思う。
 だけど真相にたどり着くことで、普通の女の子にはできない事が、大切なものを護る事ができるのではないだろうか? 逃げずに受け入れる事こそが、希望に繋がるのではないか? 手紙を文面通りに受け止めるなら、それが真実であるなら、ぽっぷの周辺に絶望的な危機が迫っている事になるのだから……。
 何にせよ、何かを判断する為には、判断材料が必要だ。可能な限り情報を集め、吟味しなければ、
 ふと、ぽっぷの心に『肉を斬らして骨を断つ』という言葉が浮かぶ。場に相応しいかどうかは判らないが、今のぽっぷの心境にはピッタリの言葉だった。やり遂げたまえ〜〜。

 勇気と元気を取り戻したぽっぷは、涙を拭くと、ベッドから勢い良く起き上がり、オモチャを包んでいた包装紙に目を向けた。包装紙には『美空玩具』の文字と一緒に住所と電話番号、そして営業時間が印刷されている。今わかる範囲では、これが最後の手がかりである。
 住所は意外と近い。歩きでも10分とかからないだろう。営業時間は午後1時から午後7時までとある。現在時計は午後4時半を指している。時間に余裕があるならば行くべきだろう。どうせこのままでは、勉強にだって身は入らない。
 お店の人に質問できるかどうかは判らないが、現物は無いより在った方が良いに決まっている。ぽっぷはDXペンタローをボストンバッグに入れ、肩に担いだ。カードケースは小さかったのでズボンのポケットに入れる。段ボール箱はかさばるので、配達伝票だけをはがし、持っていく事にした。もちろん『美空玩具』の包装紙も忘れない。更に家のカギと財布にケータイ、暗くなったときの為に懐中電灯も持っていく。備えあれば憂い無しである。

「あら、ぽっぷ、でかけるの? テスト期間中なのにしょうがないわねえ。ちゃんと夕飯までには帰りなさいよ。最近は物騒になってきたんだから。」
「なるべく早く帰るつもりだけど、遅くなったら電話するね。じゃあ、いってきま〜〜す。」

 お母さんの言うように、確かにここ最近、美空市の治安が悪くなったようだ。今朝のホームルームでも、試験が終わっても遅くまで遊び歩かないようにと、シスターに釘を刺されたばかりである。
 ………まさか、治安悪化と怪事件にも因果関係が? 勘弁してほしいなあ……。
 それにしても『美空玩具』か……。近所にこんなオモチャ屋さんがあっただろうか? 近所のはずなのに、ぽっぷには覚えが無かった。


Scene7◆風の衣

 謎の送り主『エルピス』……。
 贈り物がイタズラでないとすれば、友達の線は完全に消える。むしろ人外の者…異世界の住人の可能性の方が遥かに高いだろう。ここ数年見かけてはいないが、心当たりはあるワケだし。
 気になるのは、確率は低くともリスクのある配達便で送りつけてきた事だ。配達中にトラックが事故にあって破損したかもしれないし、両親が受け取れば不審な荷物と判断され、捨てられていたかもしれない。
 わざわざ近所の美空玩具まで来てDXペンタローを買いに来るくらいだから、美空市在住か、頻繁に訪れていると考えて間違いないだろう。なのに何故、ぽっぷに直接会って渡さない? 何か都合の悪い事でもあるのだろうか? それともぽっぷが何かを見逃しているのだろうか?

 13枚のカードが収納できる携帯用ケース『ウラノス』……。
 空っぽのカードケースをわざわざ送りつけて来るのだから、ぽっぷにカードを集めさせようって魂胆ではないだろうか? その昔、お姉ちゃん達が似たような事をさせられていたっけ。名前はたしか…バッドカードだったかな? するとやっぱり、『エルピス』ちゃんの正体は魔女…なのかも?

 そして信憑性は無いけど、『幻獣』の仕業と思われる怪事件の数々……。
 この怪事件が、特殊なカードによって引き起こされているのだと仮定すれば、このような仮説が成り立ってしまう。
「美空市にばらまかれてしまった『幻獣』カードのせいで、怪事件が発生! 事態を収拾する為には、『幻獣』カードを全て回収するしかない。そこで『エルピス』ちゃんは人間界に住むスーパー美少女、我らが春風ぽっぷに『ウラノス』ケースを託し、「ピンチになったら『風の衣』を着なさいね」と伝言を残し、カード回収の仕事を押し付けた」と……。
 ぽっぷが想定する可能性の中では、最悪の事態と言える。そうならない事を祈るばかりだが……。

 残された最後の謎、『風の衣』……。
 ぽっぷの仮説に基づけば、『DXペンタロー』こそが『風の衣』に関係するはずなのだが、今のところペンタローだけは手がかりが何も無い。これから向かう美空玩具で、何か判るのではないかと期待はしているのだが、それでダメなら仮説そのものを大幅に見直さねばならないだろう。
 もちろんぽっぷにしてみれば、仮説が成立にないが嬉しいのだが……。

「ええっと……ここら辺だと思うけど……どこかなぁ?」

 玩具屋なら普通、子供番組のポスターが貼ってあったり、店頭にガシャポンが置いてあったりするものだが、一見して玩具屋と判る建物はどこにも見あたらなかった。それはそうだろう。あからさまな玩具屋なら、幼い頃に気付いていたはずだ。恐らく、お子様お断りな頑固親父のこだわりのお店か、いちげんさんお断りの隠れ家的お店か、商売っ毛の無いお年寄りのお店に違いない。
 そういえば、包装紙には電話番号が書いてあったっけ?
 そこで『美空玩具』の包装紙を確認し、携帯でかけてみるが、聞こえてきたのは「現在この電話番号は使われておりません」というアナウンスだった。電話番号に間違いは無い。包装紙の印刷が間違っているのか? 電話番号を変えたのか? それとも、お店自体が存在しない…とか?
 こうなれば、ご近所に片っ端から聞いて回るべきだろうか? 効率的に回るには……

 その時である。

 突然、けたたましい女性の悲鳴が聞こえた! 思わぬ事態にぽっぷは硬直する。
 何? 何が起きたの? 痴漢? ひったくり? 事故? 事件?

 ぽっぷの側を歩いていた男性が目の前で空を指差す。「おい! 誰かが落ちそうになってるぞ!!」 ぽっぷの視線が、男性の指先から指差す空へと少しずつ移動してゆく。

 別の男性が走りながら叫ぶ。「女の子だ! 屋上に女の子がぶら下がってる!」 指差す方角には10階建てのマンションがあった。ぽっぷの視線は屋上へと向けられる。

 買い物帰りの主婦がパニックを起こす。「誰か警察に……いいえ、救急車を呼んで!!」 屋上の女の子は独特な髪型で、遠目でも一目瞭然だった。ぽっぷは戦慄する。

「そんな……かりんちゃん?……どうして?」

 少女の名は、平野かりん。美空小の5年生で、元気いっぱいな後輩である。
 かつてぽっぷは、園児だったかりんちゃんに「おねえちゃん」と慕われた事がある。それから6年。何の因果か再び巡り会い、今度は「お姉様」と慕われるようになった。最初は途方に暮れていたぽっぷも、一生懸命なかりんちゃんの姿に次第に打ち解けてゆく。最近は本当の妹のように思えてきた、そんな矢先の事だった……。

 どうすれば…どうすれば、かりんちゃんを助けられるの?
「あっ! おはようございます! ぽっぷお姉様♪」かりんちゃんの満面の笑顔が浮かぶ。

 レスキューにはしご車を要請……しても準備に時間がかかりすぎる!
「ホントにヒドイですよねぇ、お姉様。」かりんちゃんの膨れっ面が浮かぶ。

 マンションの住人か管理人さんに連絡して屋上まで行って……それじゃ間に合わない!
「お姉様、どうして世界は不公平なんですか?」かりんちゃんの涙が浮かぶ。

 布団かなにかを落下地点に敷き詰めて衝撃を弱めて……そんなものどこにあるの!
「もう少し…もう少しだけ。ダメですか?」かりんちゃんの寂しそうな顔が浮かぶ。

 落ちてくるかりんちゃんを誰かに受け止めてもらって……。犠牲者が増えるだけよ!
「また明日待ってます。ずっとずっと待ってますから!」再びかりんちゃんの笑顔が浮かぶ。

 どうしてかりんちゃんを救う方法が見つからないの?
 どうしてこんなにかりんちゃんの顔が溢れて来るの?
 どうしてみんな映像みたいにスローに動くの?
 どうして私は涙があふれてくるの?
 どうして……、どうして……、どうして……。

 ぽっぷの理性は既に悟っていた。いかに知恵が働こうが、自分の力ではどうにもならないと。不条理な別れが迫っていると。
 だが、ぽっぷの心はそれを受け入れられず、混乱をきたしていた。吐き気を催し、その場にうずくまる。だが、そんなぽっぷの異常に気づくものはいない。存在すら目に入っていない。人々は皆、かりんちゃんを見上げ、固唾をのんでいたのだから。

 ただ1つの存在を除いて……。

「どうしたピュ! 何をそんなに苦しんでいるのだピュ!」

 突然、ぽっぷの脳裏に言葉が走った。誰? 誰なの?

「オマエはチカラが欲しいピュか? オレのチカラを受け入れるピュか? オマエがチカラを望むなら、オレが風の衣になってやるピュ。オマエにヒトを超越するチカラを貸してやるピュ!」

 チカラ? 風の衣? ぽっぷの脳裏にエルピスの手紙が浮かんだ。

 チカラを望むなら、風の衣をまとうべし。
 チカラを望むなら、風の衣をまとうべし。
 チカラ を 望む なら、風の衣 を まとう べし。

「もう時間が無いピュ。あの娘を助けたいのなら、今すぐ両手を翼のように広げて、『プリキュアコンバイン』と唱えるピュ! オレと早く『合体』するピュ!!」

 プリキュア? 合体?
 その意味を考えている余裕はなかった。かりんちゃんの体力はすでに限界を超えている。
 ぽっぷは言われるままに両手を広げると、言われた通りに唱えた。

「プリキュア…コンバイン。」

 その瞬間、かりんちゃんは手を離した!! 同時にボストンバッグから光が飛び出し、ぽっぷの胸元に飛び込んでくる! 光に包まれ、ぽっぷは意識が飛んだ。
 ぽっぷがかろうじて意識を取り戻し、夢か現からからぬまま手元を見ると、両腕にかりんちゃんをしっかり抱きかかえていることに気付いた。膝を擦りむいてはいるようだが、他に怪我はしていない。気を失ってはいるものの、ちゃんと息もしている。
 良かった、無事だ。安心した途端、意識が薄れそうになる。なんだか……眠い。
 周囲を見渡すと、すぐ目の前にマンションの屋上が見える。屋上には少年が一人、立ちすくんでぽっぷを見つめていた。かりんちゃんの友達だろうか? ぽっぷはひとまず、かりんちゃんを屋上にいる少年の側まで運び、そっとおろした。少年は緊張した面持ちでぽっぷを見つめ、そして問う。

「あっ、あっ、あのっ!! お、おねーさんは誰なんですかっ!!」
「え? 私? 私は………」

 ぽっぷが答えようとしたとき、身体と口はぽっぷに逆らって動きだした。勝手に決めポーズをとり、声高々に名乗ったのだ。

「天駆ける一輪の花! 
 遥かなる天空(ウラノス)の女神、
    キュアクロリス!!」
と……。

 女神? クロリス? 私は何を言っている? なんでこんな恥ずかしい真似を人前でしている?
 羞恥心がぽっぷ眠気を吹き飛ばす。が、まだまだ意識が定まらず、考えがまとまらなかった。途方に暮れていると、屋上に大人達が到着する。かりんちゃんを助けにきてくれたのだ。よかった。
 ホッと胸を撫で下ろすと、ぽっぷの身体はフワリと浮かび上がり、少年とかりんちゃんがだんだん離れていく。
 すると今度は、足下から大きな歓声が聞こえて来る。見ると遠くはなれた地面に人集りができていた。みんながぽっぷを見つめている。なんだか恥ずかしい……。人々の熱い視線で、ようやくぽっぷは我を取り戻した。

「え? 何? どうなってるの? もしかして私……空を飛んでいる?」

 ぽっぷは自分に何が起きたのかを知ろうと、あちこちを見回してみる。
 両手は肘まで隠れる長い手袋のようなものをしていた。指は5本ともむき出しで、手の甲にはウラノスのカードケースと同じスペードの装飾が付けられていた。二の腕は肌が露出しており、肩パットにはフリルが付いている。
 胸元にはスーパーロボットのようなエンブレムが付いていた。両翼を広げたようなデザインで、真ん中には花が付いている。花にはかわいい顔つきだ。ウエスト部はコマンダーレディホワイトのように肌が露出している。
 下半身に履いているのはスカートではなく、申し訳程度に布が巻かれているような感じだ。正面から見ると、中に履いているスパッツがむき出しである。後ろの腰の部分から腰紐らしきものが伸びているようだが、後ろがふり向けず確認できない。
 太ももから膝小僧にかけては、やはり肌が露出している。足にはルーズソックスのようなダブダブの靴下をはいており、赤い靴はハイヒールになっているようだ。

「プリキュア……そうだ! 思い出した! 女子中学生の間で伝えられる都市伝説……。
 ごく普通の女の子が、弱きを護り、悪と闘う為に選ばれる。その伝説の戦士が『プリキュア』。プリキュア伝説は世界中の町にあるから、美空市にもご当地プリキュアがいるかもって、誰かが話してた……。
 じゃあ私、そのプリキュアに選ばれたってコトなの?」

 浮遊するぽっぷがビルの側を通り抜けようとした時、人影に気付き、反射的に振り返った。それは人影ではなく、窓ガラスに映り込んだ自分自身の姿だったが、その異形の姿に、ぽっぷは思わず叫んでしまうのであった。

「なっ……
 なんじゃこりゃ〜〜〜〜〜〜!?」


Bパート完。◆ 引き続き、ENDパートへ…


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