PRECURE SQUARE solo 
#03ENDパート S-15-1, S-15-2, S-15-3

Scene15-1◆エピローグ〜幼なじみ

 時間を少しさかのぼり、キュアクロリスがラビリントスへ突入した頃、一組の少女グループが、楽しそうに話しながら現場へと近いていた。制服から美空中の女子生徒だと判る。学校は休みのはずだが、部活の帰りだろうか。彼女達に会っていれば、ぽっぷは懐かしさと嬉しさで奇声を上げていたかもしれない。

 7人の少女は小学1年の頃から一緒の仲良しグループである。更に朝酌(あさくみ)かのこを除く6人は、幼稚園時代からの長い付き合いだった。美空中に入り、クラス替えや部活動で別々になったとしても、可能な限り一緒にいようと誓い合っていた。何故なら、彼女たちは運命共同体だから。共に苦難を乗り越えていく仲間だから。喜びも悲しみも分かち合い、たがいに秘密を打ち明けられる、かけがえのない親友だから。だからきっと、高校や大学に進学しても、大人になっても、こんな平穏な時が続くのだろうと思っていた。少なくとも平和田(ひらわだ)ともみは……そう思っていた。
 だからこそだろうか。ともみはこの『親友縛り』に少々うんざりしていた。今日は兄の所属する美空中野球部が、美空市民球場で大空中野球部と練習試合をする日だったのだ。ライトで8番とはいえ、レギュラー入りした兄。その雄志をこの目に焼き付けようと、家族で応援に行くはずだったのに……。

「ぼやかない、ぼやかない。ともちゃんがピンチの時だって、みんなが助けてくれたじゃない。困った時はお互い様。それにこれは、私たちじゃないと出来ないことなんだから」

 ともみに慰めの言葉をかけるのは、一番の親友、諸星(もろぼし)りえである。紫色のロングヘアをストレートに下ろし、ヘアバンドでオールバックにしている。正義感が強く、曲がったことが大嫌いだが、同時に暴力以外の方法で解決することも望んでいる。書道部に在籍。書の道の奥深さに感嘆する毎日である。

「でもワタシ、ひろこちゃんやりえちゃんみたいに強くないし、ひとみちゃんみたいな超便利な才能もないし、さっちゃんみたいに勉強も出来ないしさ。カワイイだけが取り柄のダメッ子だもん」

 なるほどたしかに口先だけではないようで、ふくれっ面もかわいらしい。ともみは茶色のショートヘアーで左寄りのサイドポニー。チャイドル時代の瀬川おんぷを彷彿とさせる髪型だ。7人の中では小柄で、少々発育不全なのが悩みの種であった。野球部の兄を応援したい一心で、チアリーディング部に入部。まだまだ補欠である。

「ヘイヘイ、ともちゃんはカワイイカワイイ。アタシは無骨者で悪うございました」

 そう答えたのは都留(つる)ひろこ。スラリと背が高く、ショートカットの黒髪に浅黒い肌、ボーイッシュな面持ち。制服のスカートの下はいつもスパッツ。見た目通りの体育会系で、男子と殴り合いの喧嘩をしたこともある強者だ。絵を描きたくて美術部に所属している(画力は聞かないであげて欲しい)が、あらゆるスポーツに精通しており勝負事も好きなので、運動部が他校と試合をする時は、助っ人として参加している。

「も〜! 人を便利屋みたいに言わないでくれるぅ? いつもパシリ扱いでウンザリなんだからさぁ! っていうか、みんな遅いよぉ! もっと早く歩いてくれない?」

 先を歩いていた虹釜(ごのかま)ひとみは、速歩で戻ってくるとともみに不満をぶちまける。緑の髪を2本の三つ編みにしていて、一見、普通の女子中学生といった感じだが、『美空町の韋駄天娘』と呼ばれるほどの俊足である。体育の先生からは「オリンピックも夢じゃない」と陸上部を勧められたが、ひとみは栄光には興味が無く、英会話部に所属するものの幽霊部員である。

「私だって地味だし、戦いには役に立たないよ。でも、みんなで手分けして探さないと『入口』が見つけられないでしょ? ともちゃんがお兄ちゃん大好きなのは知ってるけど、今は我慢してよ」

 そう話すのは幸坂(こうさか)さちこ。黄褐色の髪を二つに分けてお下げにしている。勉強は美空中の中では出来る方だが、身体を動かすのは苦手だ。とても素晴らしい才能を秘めているが、地味すぎて誰にも判ってもらえないのが悩みの種。茶道部に籍を置いている。

「それにしても、ともちゃんのお兄ちゃん好きは度を超してるよね。そりゃあギリシャ神話だったら、いたって普通の『恋物語』ですむけどさ。でも、ここは21世紀の日本なんだから、あんまり羽目を外さないでよね」

 ともみに注意を促すのは競(きおい)ユキ。オレンジに近い茶色の髪をツインテールにして、いつも黄色いタイツを愛用している。ともみ同様幼い感じだが、怒らせると洒落にならないほど怖い。文芸部に所属する復讐悲劇大好き少女で、最近シェイクスピアに多大なる関心を寄せているようだ。

「でもぉ、自重できないのも青春よね〜♪」

 おっとり型の朝酌(あさくみ)かのこはそう言うとウフフッと笑った。栗色の髪を三つ編みにしているのは、本人曰く、ヘアスタイルを地味にして色気を押さえるためらしい。事実発育は良い方で、小学5年生の頃から出るところは出ていた。男子生徒のスケベな視線もまんざらではないようで、いつもほほえみで返し、男子をドギマギさせている。もしかしたら怒り方を知らないのかもしれない。ともみの恋を応援する、数少ない理解者でもある。家庭科部に所属して料理の腕を磨いている最中だ。

「だって、しょうがないじゃない。お兄ちゃんのこと、大好きなんだもん……」
「え? なぁに?」
「なんでもなぁい! 早く行こ! 試合は延長戦にもつれ込むかもしれないし、とっとと人助けを終わらせれば、間に合うかもしれないものね!」
「そうだね! がんばろ!」

 笑顔を取り戻したともみにつられ、りえは微笑んだ。りえはともみの笑顔が大好きだった。出来ることなら、いつまでもこの笑顔を護ってあげたかった。だけど、それが叶わぬ望みであることも知っていた。いずれ終わりが来ることを……。

★  ★  ★

「どういうこと? 終わっちゃってるよ?」

 美空町のコンビニエンスストア、ヘヴンイレブン美空町店を前にして、りえは戸惑いを隠せなかった。あれほど自己主張を続けていたアステリオスの気配が完全に消えている。何者かがラビリントスに進入し、アステリオスを退治したとしか考えられない。

「もしかして、ポセイドンのおじサンがしびれを切らして自分で倒しちゃったのかな?」戸惑いを隠さず、かのこが問う。
「ポセイドンのおっちゃんが、なんであたし達に牛退治させていたと思う? ラビリントスにオトナは入れないからだよ」ひろこが答える。
「じゃあ誰の仕業なの? エルピスかな?」とさちこの声。
「それはないわね。希望の女神は眠ってる子しか狙わないよ」とユキが答える。
「アレスが気まぐれでアステリオスを倒しちゃったとか?」それはりえの希望的観測。
「あいつが人の役に立つようなこと、すると思う?」ひろみは僅かな希望を容赦なく打ち砕く。
「そうだよねぇ。アイツ思いっきり自己チューだし」とともみ。
「じゃあテティスじゃないの? 神札集めてるし。……それともアルテミスかもしれないよ。狩りが好きみたいだし」それはひとみの声。
「テティスは美空湾がナワバリだし、アルテミスは繁華街。今はどっちも美空町内にはいないよ」と、ひろこはいたって冷静だ。
「じゃあ……一体だれがアステリオスを倒したの?」りえが怯えるように聞く。
「この残された気配、にわかには信じられないけど……クロリスみたいだよ」
ひろこは冷静に答えた。
「うそでしょっ! 花の女神ごときが? ラディッツにゴミ扱いされた戦闘力5のオッサンよりも弱いのに!!」ユキは驚愕する。
「確かに、プリキュアになってゼピュロスのサポートがあっても、強化されたアステリオスを倒すのは至難の業だよね。ひろこちゃんだってこの頃苦戦してたみたいだし」とひとみ。
「ハァ? 誰が苦戦したってぇ? アタシが負けるわけないでしょ! 普通に戦ったらつまらないから、ハンデを与えてるだけだよ! 縛りプレイってやつ!」とムキになるひろこ。

「それからみんな、大事なことを忘れているよ。たしかにクロリスは戦闘力0だけどさ、クロリスの依り代は、我らが春風ぽっぷちゃんなんだよ!」
「なっ! ナンダッテ〜〜〜〜〜!!!」

「……って、知ってるけどね」とともみ。
「まあ、お約束は大事だよネ」ユキは相づちを打つ。
「いかなる困難も知恵と勇気で乗り越えてゆく。それがぽっぷちゃんだもの。むしろ当然の結果じゃないかな」そう言うと、かのこはいつものように微笑んだ。
 そんなキャッキャ♪ ウフフ♪ な楽しい雰囲気をぶちこわすのは気が引けたが、りえは核心に迫らずにはいられなかった。

「…でもさ、自分のお姉ちゃんを助けるためとはいえ、ぽっぷちゃんが自ら動いたってことは、ポセイドンさんの説得が失敗したってコトだよね。プリキュア……つまり、回収者の道を選んだってコトだから……、ぽっぷちゃんは私たちの『敵』になったってこと?」

 少女達のおしゃべりが止んだ。


Scene15-2◆エピローグ〜むかし、むかし

  形ある物はいつか壊れる。生を得た者はいつか死ぬ。それが自然の摂理というものだ。自然の摂理から外れた存在である『神札』は、壊れることも死ぬこともないが、代わりに『回収者』プリキュアによって封印される。それは決して抗うことの出来ない運命。神札にとってプリキュアは、言うなれば死と呼ばれる刈り取り人……『死神』なのだ。だがそれでも、彼女達は運命に抗わなければならない。
 少し昔話をしよう。

 ぽっぷに神札クロリスが憑依していたように、幼なじみの7人の少女にも、それぞれ神札が憑依していた。
 朝酌(あさくみ)かのこには『青春の女神ヘベ』が。
 都留(つる)ひろこには『知恵と戦の女神アテナ』が。
 競(きおい)ユキには『不和と争いの女神エリス』が。
 幸坂(こうさか)さちこには『幸運の女神テュケ』が。
 平和田(ひらわだ)ともみには『平和の女神エイレネ』が。
 諸星(もろぼし)りえには『正義の女神アストライア』が。
 虹釜(ごのかま)ひとみには『虹の女神イリス』が。

 クロリス同様7人の女神達もまた、時が来るまで深い深い眠りにつくはずだった。だが、彼女達神札が目を覚ましたのは西暦2000年の4月。依り代たる少女達が小学1年生になったばかりの頃である。
 最初は何が何だか訳がわからなかった。白くて清潔すぎるその空間がどこで何なのか。そして何故唐突に目覚めたのか…。タンポポの種に偽装して大空を舞い、依り代を観察していた時とは明らかに状況が違う。そこで依り代の記憶を探って状況を確認しようとするが、更なる驚愕の事態を知る。依り代にあるはずの魂が無くなっていたのだ。
 そこが美空病院の病室だと知るのは約1時間後。状況を把握できるまでには更に数時間を要した。幸いだったのは、同じように魂の無い肉体に憑依した女神が他にもいた事だった。よりによって7人も…。

 状況はこうだ。7人の少女が突然魂を盗まれた。魂の無い抜け殻の状態では入院していても、いずれ衰弱し死に至る。そんな依り代の危機的状況に、眠っていた神札が本能的に反応し覚醒したのだ。結果的に少女達の肉体を支配することとなってしまったが、それは身体の健康維持と健やかな成長を促すための、やむを得ない措置だった。
 少女達の病状は遷延性意識障害…俗に言う『植物状態』に酷似していたが、7人もの少女が同時にかかる感染病のようなものではない。だが、女神達は犯人に思い当たる神札を知っていた。名前は『ラミア』。子供に異常なまでの執着心を持つ怪物で、幸せな家族への妬みと子供への妄信的な愛情から、少女達の魂を奪ってしまったのだ。

 こうして不本意な形で肉体を得た7人の女神は、女子生徒として美空小学校に通うことになった。常に神札が覚醒した状態であるため髪は変色したままだし、寄り代の記憶が無いため言動もおかしかったが、病気のせいだと幼なじみのぽっぷ達は納得してくれたようだ。
 女神達は平和な学園生活と幸せな家族生活に戸惑いながらも、同時に怪物ラミアの捜索も開始した。独占できる肉体がある事は嬉しいが、神札は『スクエア』の外に出ればチカラを失う。魂の無い身体のまま『スクエア』を出れば植物状態に戻ってしまうのだ(だから夏休みに遊びに行く事もできなければ、小学校最大のイベント修学旅行にも参加できなかった)。力関係には個人差があるが、神札にとって依り代は大切なパートナーなのだから。
 だけどどんなに探してもラミアは見つからない。代わりに出会ったのは、カニの仮面をかぶったおじさんだった。仮面のせいで寄り代の顔は判らなかったが、彼に憑依している神札は一目でわかった。『海王神ポセイドン』だった。

「君たち、バトルレンジャーみたいに正義のために戦ってみないかね?」

 それがポセイドンの口説き文句であった。レディに対してバトルレンジャーとか……。本来なら二つ返事で断るところだが、7人の女神達は二つ返事で食いついてしまう。ちょうどその頃、バトルレンジャーにハマったぽっぷが普及活動を繰り広げていた為、クラスではちょっとしたブームだったのだ。
 海王神ポセイドンは最も早く覚醒した神札の一枚で、1999年からすでに美空市の治安と安定に深く関与していた。民の幸せを第一に考えるとは流石は王といったところか。ポセイドンはこの頃、覚醒したアステリオスに悩まされていた。彼の依り代が大人であったためにラビリントスに入れなかったのだ。女神達との出会いは渡りに船であった。
 7人の女神達にアステリオス退治を依頼する代わりに、ポセイドンは子供では出来ないフォローをしてくれた。夜遅くまで外出するためのアリバイ工作や、情報収集に資金援助など。「私の依り代は裕福じゃないんだから、勘弁してくれよ」とこぼすポセイドンに、お小遣いをせびったのは良い思い出である。

 こうしてスーパーヒロイン気分を味わいながら、迷惑な神札を撃退し、ラミアを探していた女神達だったが、7年の時を経ても発見には至らなかった。だが、肝心のラミアが見つからないというのに、本物のスーパーヒロインが現れてしまった。プリキュアだ。
 第一のプリキュア、冥府の戦士キュアエルピス。第二のプリキュア、蒼海の戦士キュアテティス。そして第三のプリキュア、天空の戦士キュアクロリス。残すは大地の戦士のみ。4柱全てが揃うのも時間の問題だろう。
 神札は『回収者』プリキュアによって封印される。それは決して抗うことの出来ない運命である。だがそれでも、彼女達は運命に抗わなければならない。少なくとも、大切なパートナーである依り代の魂を取り戻すまでは回収されるわけにはいかない。7人の少女の命運は7人の女神達にかかっているのだから。


Scene15-3◆エピローグファイナル〜7人の女神

「やっぱりぽっぷちゃんは、私たちの『敵』なのかな……」

 諸星(もろぼし)りえに憑依する神札は『正義の女神アストライア』。その名前は『星乙女』という意味である。
 彼女は恐ろしい能力を備えていた。『正義』の名において発動される能力故、間違いが無いよう二段階の手順を踏むようになっている。第1の能力『審判の釣り天秤』は対象者に審判を下し、有罪であればパワーを奪う。第2の能力『裁きの剣』は有罪となった者に神罰を下し、『悪』を確実に葬り去る。その力は絶対である。故に、りえは己の能力を封印している。
 この7年、封印を解かずに済んでいることが、りえにとっての幸いであり、同時に苦悩であった。この世に絶対悪が存在するなら、迷わず裁きを下せるなら、どんなに楽だろう。だが現実には『絶対悪』など存在しない。目的が正しくても手段が間違っていたり、目的が間違っていても手段は正しかったりで、その形も千差万別。この世に生きる人々を安易に善悪で割り切ることなど出来ないのだ。
 だけど、ただ一つ『悪』と認定できる存在がある。『敵』である。
 彼女たち7人の女神の存在を脅かす回収者『プリキュア』は、彼女たちにとって『死神』であり『敵』であり、紛れもなく『悪』なのだ。『絶対悪』と言い切ってもいい。
 だけど…いや、だからこそ、アストライアの心は悲鳴を上げる。あのぽっぷちゃんが悪のはずがないからだ。それでも自分や仲間が狙われたら戦うしかない。だけどぽっぷちゃんに使えるのか? 確実に死に追いやる『裁きの剣』を。
 『正義の女神』であるが故に、アストライアの…諸星りえの苦悩は深かった。

★  ★  ★ 

「りえちゃん大丈夫だよぉ。ぽっぷちゃんは優しい子だから、話せばきっとわかってくれるよぉ」

 ともみは落ち込むりえを笑顔で励ました。たしかに友情と使命、二つを天秤にかければ、ぽっぷちゃんなら友情を取ってくれるかもしれない。だけどもし、使命を選んだら? それがぽっぷちゃんの『正義』だとしたら? その問いにも、ともみは笑顔で答えた。

「その時は実力行使でいいんじゃない? こっちは7人がかりなんだし」
「…………え、え〜っと?(^^;」
「うっわぁ〜、怖い怖い。己の平和を守るためなら手段は選ばずか〜い」
「あったりまえでしょ。話し合いだろうと暴力だろうと、ワタシはいかなる手段も否定しない。ひろこちゃん、平和は結果なの。手段なんて関係ないのよ」
「そんな風に割り切れる、ともちゃんが羨ましいよ……」

 平和田(ひらわだ)ともみに憑依した神札は『平和の女神エイレネ』。正義の女神アストライアとは姉妹関係にある。りえとともみがとりわけ親しいのも、そんな絆があったからだ。
 ところでエイレネは、7人の女神の中でも……いや、神札の中でも異彩を放つ存在へとなりつつあった。人間に恋をしてしまったのだ。それも依り代であるともみの、実の兄に対してである。それには様々な問題を抱えていたが、エイレネは気にも止めない。彼女にとっては今この瞬間こそが大切なのだから。この平和を壊そうとする者は、誰であろうと許しはしない。それが例えぽっぷちゃんだろうと……。

★  ★  ★

「アタシは結構楽しみにしてるんだよね。ぽっぷちゃんとの対決」
「ホント、ひろこちゃんて戦バカよねぇ。戦うことしか頭にないんだから」
「ともちゃんはわかってないなぁ。いつだって生きることは戦いなんだよ」
「そんな出崎版『家なき子』のネタを盛り込んでも、今時の子にはわかんないわよ!」
「そ…そうかぁ。名作中の名作なんだけどなぁ…orz」

 都留(つる)ひろこに憑依する神札は、オリュンポス12神の一柱『知と戦の女神アテナ』である。こと戦闘においては女神の中で最強と言っていいだろう。また、アテナには『都市の守護女神』としての面もあり、神札によって美空市に引き起こされる災厄は座視できなかった。それがこの7年間、アステリオスや様々な敵と戦い続けていた理由である。

「そりゃあ、ぽっぷちゃんの笑顔にグーでパンチなんてしたくはないさ。でも、戦いは剣や拳だけじゃないよ。頭脳戦や心理戦だってアタシには大ご馳走♪ ぽっぷちゃんが望む土俵に乗り込んで、正々堂々全力で戦いたいんだよ。言ってみたいんだよねぇ。『我が生涯に一片の悔いなし』ってさ」
「ヤレヤレ、『漢』とかいてオトコですか。だったら名前も『都留おとこ』って変えればいいのにね」
「何か言ったかな? ともみクン」
「え? ワタシな〜んにも言ってませんデスよ」
「で、でもひろこちゃん、ぽっぷちゃんに憑依してる神札はクロリスだよ? 玉の輿で花の女神に出世したけど、もともとはただの花の妖精だよ? オリュンポス12神の一柱が『強敵』と書いて『とも』と呼べる相手とはとても思えないのだけど」
「それはどうかな? 案外役不足かもしれないよ」
「え? 力不足じゃなくて役不足なの? それだと、ぽっぷちゃんにはアテナですら及ばないって意味になるけど…。意味判って使ってる?」
「うん。それで合ってるよ。ぽっぷちゃんは人間とも神札とも違う、得体の知れないチカラを隠し持ってただろ。それが何なのか判らない限り、決して侮れない相手なんだよ」

 ひろこの言う『得体の知れないチカラ』とは、魔女見習いの事である。女神達はぽっぷの秘密に気付いていたのだ。だが、下手に詮索すれば自分達の秘密を知られる恐れがあった。誰にだって人に知られたくない秘密があるし、知る必要の無い事だってあるものだ。余計な詮索はしない方が身のためと判断し、当時は気付かないふりをしていた。
 しかし『敵』となるのなら話は別である。敵を知り己を知れば百戦危うからず。そして獅子は兎を狩るにも全力を尽くす。来るべきぽっぷとの対決に思いを馳せ、ひろこの胸は熱くなるのだった。

★  ★  ★

 ひとみは早足のおかげでグループから少し離れており、ちょうど全員を見渡せる位置にいた。そこでひとみは考えていた。
 神札は壊れることも死ぬこともないが、回収者たるプリキュアによって封印される。それは決して抗うことは出来ない運命。しかし、運命にあらがう方法が一つだけ残されている。プリキュアからカードケースを奪い、代わりに自らプリキュアに…『死神』になるのだ。
 では、私たちの中でプリキュアになれるのは誰?

 ひとみは最初にひろこを見る。最強の戦闘力を誇る女神アテナ。だけど彼女はプリキュアになれない。彼女のパートナーとなりうる神札は『勝利の女神ニケ』しかいないが、キュアエルピスに先を越され、回収されてしまったのだ。
 ひとみは続けて、ともみとりえを見る。エイレネとアストライア。平和の女神と正義の女神。二人の相性はバッチリだが、プリキュアのパートナーとしては不適格だった。カードケースは天空、大地、蒼海、冥府の4属性に分かれていて、同属性の者が使わなければ古の神の加護は得られない。エイレネは冥府属性だが、アストライアは天空属性なのだ。
 ひとみは最後にさちこ、ユキ、かのこを見る。彼女達と相性の良い神札が何かはよく判らないが、どのみち時間切れだろう。今からパートナーの神札を探したところで間に合わないし、そもそも戦いに興味がないのだ。
 やはりプリキュアになれるのは自分だけ……。ひとみは改めて確信した。

 虹釜(ごのかま)ひとみに憑依した神札は『虹の女神イリス』。光速で駆け抜ける伝令女神で、彼女のスピードについて来れるのは、伝令神ヘルメスだけである。そしてイリスはゼピュロスの姉妹にして、もう一人の妻なのである。とはいってもゼピュロスが重婚していたわけではない。ギリシャ神話は古い物語だから、土地柄によって様々な解釈が生まれ派生してきた。そんな中にクロリスが妻となる説と、イリスが妻になる説があったのだ。一つの物語として整合性を持たせるなら、イリスは前妻と言ったところか。
 だからクロリスにゼピュロスを盗られたと知った時、ひとみは本当に悔しかった。しかも噂によると、ぞんざいに扱われているとも聞く。私のゼピュロスになんてこと! 私だったら、私だったらもっと優しくしてあげるのに……。
 だからクロリスには……あんな『ドロボウネコ』に対しては、なんら罪の意識は感じなかった。そうだ。愛するゼピュロスを奪い返せばいい。カードケースごと奪って、私がプリキュアになればいい! 天空の戦士、光速の女神キュアイリスになればいい!!

 だけどクロリスがどんなに憎くても、ひとみはぽっぷちゃんが大好きだった。それにみんなをどうする? ぽっぷちゃんに代わって仲間の神札を回収するの? 駄目だこりゃ。そんなこと私には出来そうにないよ。私怨や保身のために切り捨てるなんて…
 ひとみはみんなを見つめながら思った。プリキュアになれば運命から逃れられる。クロリスからゼピュロスを取り戻せる。だけどそのためには、ぽっぷちゃんだけでなく仲間すら裏切らなければならない。仲間達も7年間の想い出も大切な宝物。それを捨てて生きるくらいなら、宝物を心にしまったまま封印された方がずっといい。
 ひとみの視線に気付いたユキが近づいて話しかける。

「ひとみちゃん、どうしたの? 考え事?」
「え? あ、うん、ちょっとね。何か良い方法はないかなって考えてたんだけど、頭悪いから何にも思いつかなかったよ。えへへ」

★  ★  ★

「方法か……まあ、無いわけじゃないよ。どっちに転ぶかはぽっぷちゃん次第だけどね」
「ユキちゃんには策があるの?」
「……ていうか、もう仕掛けちゃった。テヘ♪」
「ええ!? ど、ど、どういうコト?」
「ワタシの能力、知ってるでしょう? 環境は整っていたから、ちょっとだけ蒔いちゃった♪ そろそろ炎上するはずだけどな♪」
「蒔いちゃったって…『エリスの種』を? どうしてそんなことを……。まさか! プリキュア同士を争わせてつぶし合いをさせる気?」
「最初はそのつもりだったけど、ぽっぷちゃんがプリキュアに加わっちゃったでしょ? もう安易なつぶし合いは無いんじゃないかな。だから今はドラマティックな超展開に期待してるの♪」

 さらりと恐ろしいことを口にする競(きおい)ユキ。彼女に憑依する神札は『不和と争いの女神エリス』である。不和と戦いを煽りたてる邪悪な神…などと、暗黒面ばかりが強調されているが、実は光明面もある。人々に向上心を起こし、他人より少しでも優れてあろうと競い合わせるのだ。少年漫画やスポ根漫画では必要不可欠な、主人公の前に立ちふさがる生涯のライバルとの出会い…。それこそがエリスの導きなのである。

「美空小に入った頃のこと覚えてる? ソナチネ幼稚園派とプリムラ幼稚園派に分かれて派閥争いしたよね。みんな子供だから『種』をちょっと蒔いただけで簡単に火がついちゃって。あれは面白かったなぁ。ひなこ先生には悪いことしちゃったけど」
「ああ、そんな事もあったね。……あれもユキちゃんの仕業だったんだ(^^;」
「だけど1年くらいしか続かなかったよね。ぽっぷちゃんが『大人の対応』でクラスを治めちゃったから。あの後のぽっぷちゃんの玉木さんへの対応は、正に神懸かってるとしか思えなかったけど、花の女神にそんな能力は無いはずだし……。ホント、ぽっぷちゃんって何者なのかしら」

 7年前に『エリスの種』を蒔き、クラスに不和と争いを引き起こしていたユキは、直接ではないにせよ、ぽっぷと最初に戦った女神と言える。その結果はぽっぷの完全勝利であった。だからユキ……エリスは、ぽっぷが望むならいつでも封印される覚悟だった。それが女神の…敗者なりの誇りであった。

★  ★  ★

「ねえねえ、みんなぁ。提案があるの」

 朝酌(あさくみ)かのこに憑依した神札は『青春の女神ヘベ』。酌をして回るのが趣味で、『成長』と『若返り』の能力を持つ。

「せっかく本物のスーパーヒロインが現れたんだからさぁ、私たちはスーパーヒロインごっこを『卒業』しましょうよ。そして青春を謳歌するの♪ いずれ封印される運命なら、尚のこと一日、一時間、一分一秒を大切に生きていかないと。青春は二度と帰ってこないのよ」
「いちいち青春を持ち出すのはどうかと思うけど、私はかのこちゃんに賛成♪ 封印される前にシェイクスピアは読破しておきたいしね」
「うふふ、それもいいわね♪ それがユキちゃんにとっての青春ね♪」
「じゃあ、ラミアはどうするのさ」
「も〜! ひろこちゃんったら! そのためのスーパーヒロインでしょ? プリキュアに任せましょうよ♪ 私たちは7年間ずっと探し続けてきた。だけど、ラミアの痕跡すら見つからなかったじゃない。多分、私たちではダメなのよ。でもプリキュアは違う。きっと私たちには無い能力を持ってる。それにぽっぷちゃんなら何とかしてくれる。そうでしょう?」
「つまり……ぽっぷちゃんとは敵対も共闘もしないってこと?」
「そうよりえちゃん。これから私たちは、普通の女の子に戻るの♪ いずれバレちゃうんだから、わざわざこちらから正体を明かす必要なんてないわ」
「もう誰とも戦わないってこと?」
「そうよさちこちゃん。私たち仲間に危険が及ばない限りね♪」
「それはつまり……これからお兄ちゃんの応援に行ってもいいってこと?」
「正にその通りよ、ともみちゃん♪」
「ホント? じゃ、じゃあワタシ、これから球場に戻るね!」
「ああ、待って! ひとみちゃん、せっかくだから、ともみちゃんを送ってあげてよ。あなたの翼なら一瞬でしょ?」
「そりゃあ、本気を出せば市民球場なんてあっという間に着けるけど、いいの? どう考えても普通の女の子じゃないよ」
「……まあ、いいんじゃない? 今なら人もいないし、変身してもバレないでしょ」
「そうだね♪ バレなきゃいいよね♪ じゃあワタシ、張り切っちゃおうかなぁ〜〜」

 そう言うと、ひとみの三つ編みはどんどん伸びて広がってゆき、大きな翼へと変化した。

 そしてともみを抱えると「すぐ戻ってくるから」と言い残し、一瞬で消える。見上げると、雨上がりでもないのに空にはきれいな虹が現れ、市民球場方面にアーチがかけられていた。それは虹の女神イリスが光速移動した時に現れる『航跡』であった。
 虹を見つめながら、かのこはりえに話しかける。

「ねえりえちゃん。ともみちゃんが取り返しの付かないような過ちを犯そうとしたら、あなたの能力で止めてあげてね」
「え……私の能力で? それってどういう事? それにかのこちゃん、ともちゃんの恋の応援をしてたんじゃないの?」
「応援はしてるよぉ。でも、『青春の過ち』にも限度があるから…。それにりえちゃんの能力なら、ともみちゃんを傷つけずに止めることが出来るでしょう?」
「………あ、ありがとう。そうか。そうだね! 気付かなかったよ!」

 そうだなのだ。りえの…アストライアの第一の能力『審判の釣り天秤』なら、一時的に力を奪うだけで傷つける事は無い。正義の裁きを下すのではなく、過ちを未然に防ぐ為に、説得して改心させる為に、この力を使えば………。りえの顔にようやく笑顔が戻った。

★  ★  ★

 笑顔を取り戻したりえの傍らでは、さちこがぽっぷに思いを馳せていた。

(ぽっぷちゃんありがとう。あなたが選んだのは茨の道……ううん、もしかしたら修羅の道かもしれない。だけど熟慮した上での結論だよね? だから応援してる。私は何も出来ないから……少しだけど私の幸運を分けてあげる。だから……だから負けないで……)

 幸坂(こうさか)さちこに憑依した神札は『幸運の女神テュケ』。心優しき女神だが、自分の能力は好きではなかった。もし無制限に幸運を与えられるならどんなに良いかと思う。だけど実際の能力は幸運の再配分である。つまり誰かに幸運を授けるには、誰かの幸運を奪わなければならないのだ。
 彼女の能力は、使い方を誤ると恐ろしい結果を招くことになる。例えば、一人の人間から全ての幸運を奪い取ってしまえば、立て続けに起きる不運で破滅させることだって出来るのだ。
 だから、どうしても誰かに幸運を授けたい時は、自分の幸運を分けてあげる事にしていた。

「さっちゃ〜〜ん! 何してるの〜〜〜!! 早く行こうよぉ〜〜! これからぽっぷちゃんのプリキュア就任を祝ってパーティーするんだからさぁ〜〜!」
「あ、う、うん」

 気がつくと、ともみを球場に送ったひとみはすでに戻って来ていた。みんなはすでに移動を始めている。さちこはあわててみんなを追いかけるが、何もないところで足を引っかけ、ステンと転んでしまう。

「あははは♪ なに転んでるのよ。相変わらずのドジッ子なんだからぁ♪」

 この後もさちこは何もないところで更に3回転び、鼻をすりむいた。これが幸運の再配分の結果である。だけどさちこは挫けない。何故ならそれは、自分の幸運をぽっぷに授けた何よりの証拠なのだから。

 プリキュアとなったぽっぷは、知恵と勇気で絶体絶命のピンチを何度も乗り越えてゆくが、幸運が味方しなければ乗り切れない状況に何度も遭遇する。それはもしかすると、幸運の女神テュケの……さちこの加護なのかもしれない。


◆ ◆ ◆ ◆ 第3番・完 ◆ ◆ ◆ ◆


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