PRECURE SQUARE trio 
#02ENDパート

Scene24◆別れの宴

「……あの子達が閉鎖空間から、しかも3人とも無事に帰還した時は、嬉しくて涙が出て来ましたよ。現実世界では3時間ほどですが、閉鎖空間では9ヶ月前後の時間が経過しています。その間に修行をしたり、絆を深めたりしたのでしょうね。すっかり頼もしくなっていました。そして悟ったんです。私の役目は終わったのだと」
「それでは…決められたのですか?」
「ええ。神札に戻ります。いい加減この身体…、この依り代も解放してあげなければ、かわいそうですしね。そろそろ頃合いでしょう」
「9年もの間、美空市と人々のためにご尽力していただき、本当にありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ我々の存在を理解してくれた上に、寛容に受け入れてくださった皆さんには感謝に堪えません。神々を代表して御礼申し上げます」
「ですが…寂しくなります。それに来るべき災厄を考えると、あなたにはもう少しこの世界に留まってほしかった」
「大丈夫ですよ。あの子達が、プリキュア達がいます。それに協力的な神々もまだ残っていますしね。まあ、少々若いのが難点と言えば難点ですが、私に代わって導いて上げてください」
「え!? 私が導くのですか? ………やっぱりもう少し留まってもらえませんか。あなたの代わりに戦うのはかまわないのですが、ねんねの子守りは勘弁願いたいです」
「ははは。ま、観念することです。若い子に大人の論理は通用しませんから、いろいろと面倒でしょうが、子供達の成長を見守るのも楽しいですよ」
「………それで、いかなる最後を迎える予定なのですか?」
「依り代の社会生活もありますので、今日明日というわけには行きませんが、頃合いを見計らって、あの子達の…3人のプリキュア達の前に立ちふさがる壁になるつもりです。アニメ的に例えるなら、序盤の幹部キャラ的立ち位置でしょうか。成長した彼女達と全力で拳を交えるのも、また楽しみではありますよ」
「ご健闘をお祈りしてます。海王ポセイドンさん」
「ありがとう。なるべくドラマティックに散ってみせますよ。あとの事はよろしく頼みます。矢吹鬼さん」

 そう言うと、二人の男は杯を酌み交わす。別れの盃であった。

「……さて! 湿っぽい話はここまでにして、おかみさん、早速料理を出してもらえるかな♪ なんだかんだでたけし君の料理が楽しみだったりするのだよ♪」
「海王さん、いつもすみません。さ、たけし。運んでちょうだい」

 美空市の『護り人』矢吹鬼と、海王ポセイドンの密会(?)は、美空町町内会の会合として、毎月のように、長谷部たけしの母が経営する小料理屋『秋穂』で行われていた。重要な話をする時は貸し切りにしている。
 春風どれみがアステリオスのラビリントスに囚われた時、ぽっぷに『ミソラ・ミステリー・ツアー』を渡すようおかみに頼んだのもポセイドンであった。彼は9年前、神々の誰よりも先に覚醒すると、美空市の『護り人』に神の力と神札の情報を提供し、神々の暴走から人々を陰ながら護り続けていたのだった。彼が人々に友好的なのは、憑依した依り代が、愛する家族を持った父親だったからだ。依り代はポセイドンに憑依されていることを全く知らないが、彼の人柄が美空市に頼もしい守護神を生み出したのである。

「お待たせです。いかがでしょうかっ」
「ほう! この海王ポセイドンに海鮮料理で挑むとなっ。正に神をも恐れぬ所業。これが若さ故の過ちというやつかっ! しかし最後の晩餐にはふさわしいとも言えるかもしれぬ よおっし、その勝負、受けて立つぞ!」

 長谷部たけしは、幼い頃からポセイドンを身近に知る数少ない人間の一人である。もちろんギリシャ神話の海の神王とはつゆとも知らなかったが、なにしろ蟹の仮面をかぶった青い髪の変なおじさんなので忘れようが無い。初めて見たのは小学3年生のときだったか…。思いっきりドン引きしたのは良い想い出だ。
 中学生になったたけしは、母の小料理屋を助けようと料理人を目指す事にしたが、その夢を誰よりも応援してくれたのがポセイドンだった。相変わらず蟹の仮面をかぶったままだったが、その頃にはもう慣れてしまっていた。
 そして今、高校三年生になったたけしがいる。今では小料理屋で母の手伝いをするだけでなく、栄養学を勉強して、女子プロレスラーを目指す工藤むつみの為に弁当を作るようにもなっていた。振り返ってみれば、たけしが料理人の夢を追い続けていられたのも、ポセイドンのおかげと言える。
 ポセイドンの発言はいつも大げさで、どこまで本気で言っているのか判らないが、小料理屋『秋穂』に来るのは今宵で最後だという事だけは間違いなさそうだった。だからたけしは、自分作る料理の集大成を味わってもらおうと心血を注いだ。それがたけしに出来る、ポセイドンへの唯一の恩返しだった。

「たけし君。今日の料理は特別にうまかったぞ。何より思いが…いや、魂がこもっていた。立派な料理人になってお母さんに孝行したまえ」

 お開きとなったのは、閉店時間を過ぎた0時半だった。別れ際、たけしはポセイドンに駆け寄り、思い切ってずっと気になっていた事を問うた。

「あの…海王さん。本当に今日で最後なのでしたら、海王さんの素顔、見せてもらえませんか?」
「う〜む。これは国家機密を上回る最高機密なのだが…、誰にも言わないと約束してもらえるかね?」
「はい。約束します」
「ふっ、いいだろう。観るが良い、私の素顔を。まあ、正確には私の依り代の素顔なのだが」
「………あっ! あなたは!!」

 たけしは、蟹の仮面に隠されたポセイドンの素顔を見て、全ての疑問が解けた。ポセイドンがたけしを応援してくれていたのは……つまりそう言う事だったのだ。

「な、なんで仮面なんてかぶってるんスか」
「もちろん正体を隠すためだ。くれぐれも約束を忘れないようにな」
「は、はぁ……」

 同時に美空市にはびこる神々の存在を知らないたけしには、新たな謎の生まれた瞬間でもあった。

「なあ母さん。この町で、いったい何が起きてるんだ?」
「……そうね。たけしももうじき18歳だもの。教えても良い頃合いね。だけど、本当に誰にも言ってはダメよ」

 そしてたけしは、にわかには信じがたい、美空市にまつわる驚愕の秘密を聞かされるのだった。


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オモイドウ
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