PRECURE SQUARE capriccio
Aパート S-0, S-1, S-2, S-3, S-4, S-5, S-6, S-7, S-8,

Scene0◆アバンタイトル〜美しき空のもと(first day)

「パンドラ。こんなとき、人間だったらどうするの?」
「計画が成功したんだから、笑えばいいと思うドラ」
「あーはーはーはーはー。うーふーふーふーふー。
 …………どう?」
「……………。す、少しぎこちないけど、だいぶ人間らしくなったドラ……かな(^^;」
「そう……。よかった………」

 キュアエルピスは空を見つめていた。上空ではペガソスとキュアクロリスの追いかけっこが繰り広げられている。計画は大成功だった。臆病なペガソスはがむしゃらに逃げ回り、心優しきキュアクロリスはペガソスを倒せない。そしてこれだけ派手に暴れ回れば、狩猟の女神アルテミスが見逃すはずも無い。もう少しだ。もう少しで第4のプリキュアが……大地の女神が光臨する。天空、大地、蒼海、そして冥府…。すべてのプリキュアが揃うのだ。

「ごめんパンドラ……。そろそろ………活動限界……」
「あとのことは私に任せて、エルピスは『本体』に戻るドラ」
「お願い………」

 そう言い残すと、キュアエルピスは合体を解く。その場にはぬいぐるみサイズの女の子が残された。

 パンドラのパンとは『すべてのもの』、ドラは『贈り物』の複数形を意味する。神々によって造られた人類最初の女性であり、その名は美貌、才能、感性など、あらゆる『贈り物』を与えられたとする神話に由来していた。そして彼女が憑依しているのは『機動戦隊バトルレンジャー』放送当時にトルトルキャッチャーの景品として製造された、ゲストヒロイン『ミィ姫』のぬいぐるみ。パンドラが瀬川おんぷの姿を模したぬいぐるみに憑依することで顕現(けんげん)したのは偶然であろうか? つまり何が言いたいかというと、おんぷちゃんマジパンドラ♪ ……いや、忘れてください。

 パンドラの手元には2つのカードケースがある。エルピスから託された時、カードケースは4つあった。ダイヤのマークのカードケース『冥府神エレボス』はエルピスの代わりにパンドラが預かり、第1のプリキュア『キュアエルピス』に合体するため使用している。ハートマークのカードケース『蒼海の女神タラッサ』は海原くみこが受け取り、第2のプリキュア『キュアテティス』となった。スペードマークのカードケース『天空神ウラノス』は春風ぽっぷが受け取り、第3のプリキュア『キュアクロリス』となった。残すはクラブマークのカードケース『大地の女神ガイア』のみ。第4のプリキュアが誕生し、すべてのプリキュアが揃えば……。いや、それでもまだ、スタートラインに立ったにすぎないか。予断は許されない。今は仕込みに専念せねば。

「春風ぽっぷちゃん。私の計画が成功するもしないもあなた次第ドラ。私の思惑通りに動いてくれるよう、期待してるドラよ♪」

 美しき空のもと、パンドラはキュアクロリスの健闘を祈るのだった。



◆ ◆ ◆ ◆ Aパート ◆ ◆ ◆ ◆


Scene1◆ペガソス・クライシス(first day)

「タイヘンだよ! ひろこちゃん!!」

 1人で下校していた都留ひろこは、突然上空から声をかけられた。ひろこが見上げると、緑の翼を広げた女子中学生姿の女神が降下して来る。女神が着地すると、大きく広げた翼はどんどん小さくなり、かわいい三つ編みに戻ってゆく。

「日が暮れて虹の航跡が残らないとからって、大胆すぎるよひとみちゃん。人に見られたらどうするの?」
「それどころじゃないよ!! タイヘンなのよ!! ペガソスとプリキュアが! キュアクロリスが派手に空中戦をやらかしてるんだよ!!」
「へぇ! 空気がざわついてるのはそのせいだったんだ。でも変だね。閉鎖空間での戦いにしては、ざわつきが生々しい…。まさか、『スクエア』全域が閉鎖空間に飲み込まれたとか?」
「それがおかしいのよ! 閉鎖空間自体発生してないの! この騒ぎは通常空間で起きているのよ!」
「つまり……デュエルが成立してないってコト? これだけ騒がしいのに? どんな形であれ、互いが戦いの意志を示せばデュエルが成立して、戦いは閉鎖空間へ移行されるはず。例外はアステリオスのように自ら偽装空間を創り出した場合だけで、いずれにせよ、通常空間を被害を与えないよう機能するはずだよ。それが機能しないという事は………」
「もしかして、ワタシたちの知らないところでルールが替わっちゃったのかな」
「ルールが早々替わるわけ無いよ。あるとすれば、あたしたちの知らないルールの存在か、ルールをくぐり抜ける抜け道のどちらかじゃない?」

 その時、二人は空気のざわつきが間近に迫って来るのを感じた。暗くなった空を見上げていると、数秒程度だが、ペガソスとキュアクロリスが追いかけっこする姿が見える。
 ……追いかけっこ?

「デュエルが成立しない理由が判ったよ。あれは空中戦じゃない。ただの鬼ごっこだ」
「でもその『ただの鬼ごっこ』のせいで、美空市が大変な事になってるのよ! ペガソスは必死に逃げようとして町のあちこちを破壊している。なのにクロリスは追いかけるだけ…。ねえ、ひろこちゃん! 本当にワタシたち、何もしなくていいの? ぽっぷちゃんに託したのは間違いだったんじゃないの?」
「ひろこちゃん。戦士が一人前になるには、数々の試練を乗り越えなければいけないんだよ。ぽっぷちゃんはプリキュアになる道を選んだ。これはぽっぷちゃんに課せられた試練なの」
「この騒動で死人が出るかもしれないんだよ! それでもこれをぽっぷちゃんの試練だというの?」
「そうだよ。正にその通り。これはぽっぷちゃんの優しさと甘さが引き起こした災厄だもの。戦士としての自覚を持ってもらう為には犠牲も必要ってことさ」
「ひろこちゃん! 戦の女神だからって、いくらなんでも非情すぎるよ!」

 ひとみの顔が引きつり、怒りをあらわにする。しかしひろこは動じず、微笑みながら応える。

「じゃあ、折衷案をだそうか?」
「え………折衷案?」
「ぽっぷちゃんには試練を乗り越えてもらわないと困るから、手助けは一切しない。だけどその為だからって、死者を出す必要も無い。そしてあたし達は、普通の女の子としての生活を守りたい。だから、誰にも知られる事無く、私たちだけで、こっそり人助けをするの」
「………見殺しにするんじゃ、ないの?」
「アンタあたしを誰だと思ってんの? 都市守護神のアテナ様だよ♪ 美空市の危機を知りながら、黙って見過ごすわけないでしょ」
「あ〜! わざとワタシを怒らせようとしたのね! ……ホントいじわるなんだから!」
「みんなにも知らせてくれるかい? 都市部はあたしが全力で護る。ひとみちゃんはスピードを活かして、あたしのフォローしきれない『スクエア』の端っこを護ってくれないかな。他のみんなには美空町の護りに入ってもらいたい。私たちにとってドコよりも大切な場所だからね。何か問題ある?」
「問題ないよ。戦の女神様が考えた布陣だもの。ベストだって判ってる。じゃあ行くね!」

 ひとみは再び翼を大きく広げると、虹の女神イリスへと変化する。呼応するように、ひろこも知恵と戦の女神アテナへと変化した。それは互いが全力を出す事の証であり、初めて見せる神々しい本来の姿だった。

 その日の事件は、後に『ペガソス・クライシス』と呼ばれ、人類の歴史の転換期として記憶される事となる。だが、この時点では事件の重要性に気付く者はほとんどいなかった。無理も無い。事件を裏付ける証拠がほとんど消えていたからだ。
 1級魔女見習いの能力を有するファファにより、破壊された街並みはほとんどが修復された。『姫巫女』の子守唄によって事件は記憶の片隅へと追いやられ、多くの人々にとって無価値な物となった。事件の重要性を認識しているのは特別な力を持った一部の者しかいないのだ。しかし、そのように何事も無かったかのようにできたのは、奇跡的に1人の死者も出なかったからだ。そう。誰もがそれを奇跡だと思った。
 美空市の人々が、最速の女神と最強の女神を中心とした7人の女神達に護られていた事は、永遠に誰にも知られることはないだろう。


◆ ◆ ◆ ◆ 至宝の狂想曲 第1番 ◆ ◆ ◆ ◆

こんとん!
〜 美しき空のもとで 〜


Scene2◆二人の転校生:その1(second day)

「ぢょしこうせいだぁ♪ ぢょしこうせいだぁ〜♪ ぢょしこうせいだぁ〜〜〜♪」

 美空高校の制服を着た年頃の少女が、鏡に映った自分を見つめながら浮かれていた。
 カールのかかったブロンドには大きな赤いリボンが揺れ、白い肌は高揚して赤く染まり、大きな青い瞳は喜びを隠しきれない。

「なぁに♪ なんなの♪ この制服♪ 可愛いのかエロいのかワケわかんな〜い♪ 太もも出しまくりじゃん♪ スカートがこんなに短くてホントにいいの? ビッチとか言われたりしないかな♪」
「100年前とは違うんだし、女子生徒はみんな同じ格好してるなら大丈夫じゃない?
 20年くらい前に人間界に行ってたマジョポンなんか、おヘソ丸出しだったじゃん」

「ねえナージャ! どうかな? 似合ってる? おかしくない?」
「すっごくオカシイ!」
「え!? ど、どこ? どこがおかしいの?」
「マジョローズのア・タ・マ・が!
 その名を聞けば泣く子も黙るクールビューティー『赤ずきん』はどこに行ったのよ!
 なんで人間界の学校に行くくらいで浮かれてんの!」

「だって花の女子高生だよ! 共学の高校だよ! オトコノコがいるんだよ!」
「そりゃあ人間界だもの。いるに決まってるけど……」
「しかも年頃だよ! 若いツバメだよ!!」
「若いツバメて……年下の恋人作る気満々か〜い! 女王になる野望はどうしちゃったのよ!」
「馬鹿ね〜。このあたしを本気にさせるようなオトコなんているわけ無いでしょ!
遊びよ、ア・ソ・ビ♪ せっかく人間界に来たんだもの。魔女界で持ち腐れていたこの美貌を有効利用しなくちゃ、もったいないオバケが出てきちゃうわよ♪」

「遊びねぇ……。確かに魔女界って退屈なところだし、人間界って刺激的なところだけど。マジョトゥルビオン様と同じ轍は踏まないでよね」
「はいはい、判ってますよ。……あっ! でも、金や権力で魔女どもをかしずかせるより、愛と美貌で男どもをかしずかせた方が、面白いかも♪」
「も〜〜〜!! 勝手にしろ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「アハハハハ♪ 冗談、冗談だってば♪ じゃあそろそろ行って来るね♪」
「え? もう出かけちゃうの?」
「久々の人間界だし、ニッポンポンに来たのは初めてだもの。景色を見て回りたいのよ♪」
「魔法堂はどうするのよ〜! 昨日マジョローズが壊したまんまじゃん!」

 そう言われてマジョローズは後ろを振り返った。なるほど確かに部屋はメチャクチャだ。昨日の夕方、魔法堂に訪れた際、中型犬クラスの奇妙な小動物と遭遇して、慌てたマジョローズが辺り構わず攻撃してしまったのが原因なのだが。とりあえず、外観は一般人にバレないよう、幻惑魔法で壊れた箇所を隠しているが、根本的な問題は何も解決していない。

「私、騙したり壊したりするのは得意だけど、直すのは苦手なのよ」
「自分でやらかしておいて、それはないんじゃない?」
「も〜〜! しょうがないなぁ」

 マジョローズは昨夜持ち込んだ荷物を探ると、手のひら大のものをナージャに渡した。

「じゃあナージャ、これでなんとかして」
「……これはマジョローズが弟子をとる時に使うタップでしょ。妖精の私がタップ使えるワケないじゃない。ファファじゃあるまいし」
「なんだ。ちゃんと判ってるじゃん。ま、そういう事で、ヨ・ロ・シ・ク♪」
「ンもう! あたしに丸投げするなぁ〜! バカァ〜〜! 鬼畜魔女〜〜!!」

 妖精ナージャの悲鳴にも似た罵倒を励ましと受け止め、マジョローズは魔法堂をあとにした。
 いざ行かん。未知なる世界、美空町へ!

★  ★  ★

「さあ〜! 盛り上がってまいりました♪
 マジョローズちゃんにはどんな出会いが待っているのかしらね♪ うふふふふ♪」

 奇声を上げながら喜んでいるのは、我らが美しき自宅警備員マジョフブキである。相変わらずこたつに入って人間界が映し出されたモニターを眺めているが、その中心に映っているのはどれみ達ではなく、美空高の制服を着て町を歩くマジョローズだった。

「し、信じられません。これがあの悪名高い『赤ずきん』ですか? まるで生娘のようではありませんか!」
「いや、あのね、ローズちゃん生娘だから。メイド奉公時代には色々辛い思いをしてたみたいだけど、不純異性交遊とかしてないからね。不適切発言は控えてね(^^;」
「悪魔のような小悪魔と呼ばれたマジョローズが、無垢な子供のようにはしゃぐとは…」
「いやいや、大人びてるけど、背伸びしてるだけでローズちゃんまだ子供みたいなものだから。人間ならおばあちゃんだけど、100年前から魔女の寿命だからね(^^;」

 マジョフブキのとなりで凝視しているのはマジョリンである。彼女は鈍った身体を鍛え直すべく、山にこもって修行に明け暮れているが、毎日一度はマジョフブキの様子を見に訪れていた。いつものように立ち寄ったところ、思わぬイベントを目撃することとなったのである。

「マジョフブキ様、一体、あの者に何が起きているのですか!?」
「人間界の空気にあてられているのよ」
「人間界の空気…ですか? しかし私はあのようになった事は一度もありません」
「そりゃあ、あなたは私のお供やお使いで行ったくらいでしょ? マジョローズは元々人間だったから、久々の人間界の空気に過敏に反応してるけど、年頃の魔女が人間界に長居していれば、遅かれ早かれ一度は経験する事なの。私が魔法堂のオーナーとして美空藩に訪れた時も経験したし、ピュアレーヌとして人間界に派遣したマジョポンも経験したわ。マジョドンやマジョハートもそう。
 そしてそんな時、運命にいたずらされちゃうと、マジョトゥルビオン様のように、恋に落ちてしまう…」
「し、知りませんでした。人間界がこれほど恐ろしいところだったとは。マジョトゥルビオン様がマジョガエルの呪いをかけたのも、この為だったのですね」
「いや、全然違うから(^^;」

 モニターには、カタコトの日本語で近所の人に挨拶するマジョローズが写されていた。演技にしては微笑みが自然すぎる。マジョリンにはそれがとても不自然で、不気味に思えた。
 マジョフブキは振り返ると、部屋の隅で丸くなって震える子に優しく話しかける。

「パオちゃんどうしたの〜〜? 面白いわよ。こっちにいらっしゃい」
「パオちゃん、イイ子イイ子でいるパオ〜(><) だから見たくないパオ〜(><)」

 伝説の白いゾウ、パオちゃんは、五年前に何者かに誘拐され、マジョローズに救出された事がある。つまりパオちゃんにとっては命の恩人なのだが、救出される際、マジョローズの鬼気迫る戦いぶりを見て間接的に恐怖の片鱗を味わい、トラウマを抱えるほどのショックを受けてしまった。それ以来、パオちゃんはマジョローズの顔を正視できないのだ。例えるなら、なまはげに怯える子供のようなものか。
 マジョリンは子鹿のように怯える子ゾウを見ながら考える。パオちゃんの反応は正しい。あれは、あの者は、間違いなく邪悪な存在なのだ。それが人間界に訪れただけで、こうも変わるとは……。

「マジョフブキ様。人間界に何があるというのです?」
「人間界にあるもの……というか、魔女界に無いものと言った方がいいかもしれないわね」
「それは一体……」
「ローズちゃんも連呼してたでしょう?」
「マジョローズが?………はっ! もしかして『ぢょしこうせい』ですか?」
「いや、そっちじゃなくて(^^;」
「すると……『若いツバメ』?」
「だいたい合ってるけど、もう少し幅広いわね。ようするに男性の存在よ」
「………おっしゃる意味がわかりません。男性と第三種接近遭遇したならまだしも、マジョローズはそれ以前からおかしいではありませんか」
「でも、ローズちゃんがおかしいのは人間界に行ってからでしょう? つまり人間界におかしくする何かがある。ここまではいいわね?」
「はい」
「ここから先はあくまで仮説だけど……。マジョリンはフェロモンを知ってる?」
「……いえ。存じません」
「フェロモンというのは、動物や微生物が体内で生成して体外に分泌する生理活性物質のこと。犬なら犬、猫なら猫という風に、同種の他の個体に一定の行動や発育の変化を促すの。フェロモンには様々な種類があるけど、有名なのが性的興奮を誘発させる性フェロモンね。人間の男性は男性フェロモンを、女性は女性フェロモンを生成し分泌する。そして互いを異性として認識させるのよ。
 もちろん私たち魔女も体内で生成してるわ。そして汗などと一緒に体外に分泌されている」
「はあ。汗ですか」
「汗の成分の多くは着衣に付着するけど、一部は気化して大気中に混ざっていると考えられないかしら」
「しかし、仮にそうだとしても、微量ではないですか?」
「確かにそう。フェロモンは極めて低濃度でも効果を果たすものが多いと言われてるけど、閉鎖された空間ならまだしも、大気中に拡散したものが心身に影響を与えるなんてあり得ない。普通ならね」
「と、申されますと?」
「私たちの住む魔女界が普通の環境じゃないってコト。
 魔女のフェロモンは人間の女性と酷似している。だから魔女界の大気中には女性フェロモンが混ざっているといって良いでしょう。ところが男性フェロモンは全く無いの。少なくとも、私たち魔女に変化を促すような男性フェロモンはね。魔女界には人間の男性が1人もいないのだから、当然なのだけど」
「それは確かに…道理です」
「そして当然のように、人間界の大気には男性フェロモンが混ざっている。微量とはいえ、混合率0の魔女界の大気と比べれば、溢れかえっていると言っても過言ではないわ。そして……困った事と言うべきか、喜ばしいと言うべきか、私たち魔女と人間の女性は、体の作りが極めて酷似しているの。だから、男性フェロモンが女性に影響を与えるように、魔女にも影響を与えてしまう。男性と接触しなくても、大気中に含まれた僅かな男性フェロモンを吸収するだけで、魔女には十分過ぎるくらいなのよ。
 以上で講義はお終い。何か質問はあるかしら、生徒さん?」

「いや…その…、驚きました。つまりマジョローズに起きている現象は、生物学的に言えば発情…」
「ゴラァ〜〜〜(^^; 下品な表現はおやめなさ〜い!!」
「はっ! し、失礼いたしました。ではなんと申しましょう?」
「そうねえ……恋に恋するお年頃……かな?」
「はぁ……」
「マジョリン。あなたも人間界へ武者修行にお行きなさい。魔女界と違ってスポーツも盛んだし、最強を目指して修行する武道家も数えきれないほどいるって話しよ。いっそ道場破りでもすれば、山ごもりするよりはるかに成果を上げられますよ」
「道場破りですか。それは魅力的ですが、マジョローズのような醜態を晒したくはありません」
「まっ! 醜態だなんて! 相変わらずの朴念仁ねえ。恋をするって素敵なことなのですよ。」
「お、お戯れをっ!! 私は自分を見失いたくはありません!!」
「自分を見失うどころか、むしろ新しい自分を発見できて世界が広がるんだけどなぁ……。
 せっかくオンナノコに生まれたんですもの。オンナノコを楽しまなくちゃ損よ」
「私は魔女であって、オンナノコなどというものではありませんから」
「まあいいわ。マジョリンの武者修行は今後の仮題という事にして、今はローズちゃんよ! マジョローズちゃん! ……それにしても、えらくのんびりしてるわねえ。もう、学校始まっちゃうわよ」
「もしかして、道に迷ったのではありませんか?」
「あ〜。あるある。普段、ホウキや魔法に頼りすぎていると、人間界で苦労しちゃうのよね〜。私も最初はそうだったわ。でも、こういう時に運命の出会いがあったり無かったり……。思い出すなぁ……幕末の美空藩で迷った時の事」
「ああっ!! 激突しました!!」
「そして私は孝之進様と……え!? なに? なに? ローズちゃん始まった?」

★  ★  ★ 

 それは出会い頭の衝突だった。道に迷ったマジョローズが曲がり角に差し掛かった時、全速力で走って来た人間に気付くのが遅れ、避けようが無かったのだ。

「ごごごごごゴメンナサイ!!(><) 
 遅刻しそうで慌ててたんですぅ!! 
 転校したばかりで町並みに詳しくなくてぇ!!
 だ、だ、大丈夫ですか!!」

 先に立ち上がったのは人間の方だった。声から察するに16~7の若い娘のようだ。マジョローズは英語で悪態をつきそうになったが、口から吐き出される直前で飲み込む。言葉が通じなくても、響きの悪さから悪態と気付かれるかもしれない。人間界に来て早々、悪評は作りたくない。
 目を開けて最初に飛び込んで来たのは短いスカートから伸び出た彼女の太ももだった。ちっ、生足とは見せつけてくれる。100年前の価値観を捨てきれないマジョローズには、そこまで露出する勇気は出せず、パンティストッキングをはいていた。
 見上げるとマジョローズと同じ美空高校の制服を着ている事が判る。髪はローズマリーより長いが、プロポーションは小粒な感じだ。典型的大和撫子体型ということか。

「気ヲツケテクダサ〜イ。ニッポンジン急ギスギデ〜ス」
「本当にごめんなさい……ゲッ!?」

「ゲッ」? 「ゲッ」とはなんだ? 驚きを表す言葉ではないのか? それも響きから察するに、あまり良い意味では無いように思える。では何を驚いている? マジョローズの何を驚いているというのだ?
 そんなマジョローズの疑問に長髪の少女はすかさず応えた。

「ご、ごめんなさい。外人さんを見るの初めてで……。でもよかった。言葉通じるんだね♪」

 一瞬、心を読まれたかとギョッとしたが、すぐに違うと気付いた。そう言えば昔、ジャパニーズは全国民がニンジャかサムライのいずれかで、『空気を読む』という特殊能力を備えていると聞いたことがある。くだらないウワサだと思っていたが、マジョローズがかもし出す雰囲気から察したのだとすれば、あながちウソでもないのかもしれない。むう、ジャパニーズ侮りがたし。
 マジョローズは長髪の少女に心のうちを悟られないよう、満面の笑みを浮かべた。

「ワタシ、イギリスから来まシタ、ローズ・マリア・マキハタヤマ言いマス。
 ヨロシクです♪」

 長髪の少女はマジョローズがさしだした手をギュッと握ると、やはり満面の笑顔で応えた。

「私、桜田ふぁみ! こちらこそヨロシクね、ローズちゃん♪」


Scene3◆二人の転校生:その2(second day)

「どうやら娘のようです」
「なぁんだ、ザンネン。素敵な彼氏と運命的な出会いをしてほしかったのに。見たかったなぁ、恋するローズちゃんの可愛いとこ♪」
「今でも十分不気味ですので、これ以上は勘弁していただきたいです」
「これこれマジョリン、年頃の娘にそのような物言いはおやめなさい」
「あの…マジョフブキ様」
「なんですか?」
「さっきから気になっているのですが、マジョローズと激突した娘、どれみちゃんににてませんか?」
「え?」

★  ★  ★

 桜田ふぁみは運命的なものを感じていた。この任務に自分が選ばれた事も。大好きなおばあちゃんと、それも同い年の女子高生同士として再会できる事も。そしてドスンとぶつかる、漫画のようなベタな出会い方も……。よりによってマジョローズさんと、このような形で知り合う事になろうとはっっっっ!!!
 ふぁみには目の前の現実が信じることができなかった。心の中で叫ばずにはいられなかった。

(私の師匠がこんなに可愛いわけがない)と……。

 桜田ふぁみは百年後の美空町からやって来たタイムトラベラーである。小学校時代には魔女見習いとなり、魔女界と人間界との交流にそれなりに貢献して来た。その時のふぁみの師匠にして魔法堂のオーナーが、目の前にいるマジョローズなのだ。
 ふぁみの知っているマジョローズは、見た目はセクシーなオトナの女性だが、中身は鬼畜な外道で悪い魔女そのものだった。でも……もしかして百年前は、ピュアピュアリンなカワイ子ブリッ子(死後)魔女だった? いやいやいや、そんな事はあり得ない。ゼッタイ猫をかぶっているに違いない! 騙されるなふぁみっ! これは光明の罠だっ!

「……ていうか、こんな事やってる場合じゃないんだよ! 遅刻だよ! チ・コ・ク!」
「why? チコク…何デスか? ニホンゴ難しデス」
「も〜! 何で日本語判らないのよ〜! とにかく走って! RUN! ラン! らん!」

 そう言うと、ふぁみは途方に暮れているローズの腕を引っ張り、美空高校に向かって走り出した。転校した初日から遅刻なんてカッコ悪すぎる! だけど、間に合うのだろうか?


Scene4◆風になる(second day)

 よかった。熱が下がってきた。咳も出ないし呼吸も落ち着いてきてる。ぽっぷの病状は回復に向かっているようだ。ホッと胸をなで下ろしたファファは、昨夜のことを振り返る。

 疲れ果てていたぽっぷを部屋に寝かせたファファは、影武者として何事もなかったように春風邸に帰宅し、ぽっぷの家族と夕食を囲んだ。久々に会ったどれみに思わず他人行儀な態度を取ってしまったり、生まれて初めて食べるはるか母の手料理に泣いて喜んだりと、ついつい不審な行動を取ってしまったが、影武者としての使命はなんとか果たせたようだ。
 だが、影武者ぽっぷが部屋へと戻ると、思わぬことになっていた。本物のぽっぷはベッドで高熱にうなされていたのだ。みんなの笑顔を守るため、プリキュアとして戦うと決意したぽっぷだったが、結局ペガソスを救うことは出来ず、判断の甘さから美空市が壊滅しそうになり、挙げ句の果てには幼なじみの玉木えりか(アルテミス)から命を狙われる……。疲労と悲しみが、絶望と挫折が、ぽっぷを徹底的に打ちのめしていたのだった。
 ぽっぷの病気も心配だが、このままでは本物と影武者の落差が大きすぎて、家族にぽっぷの秘密が知られてしまうかもしれない。特にどれみに気づかれる可能性は高かった。そこで影武者ぽっぷは布石として、一芝居うつことにする。頭が痛そうに一階へ下りると、母・はるかに「なんだか熱っぽい」と訴えたのだ。うまく風邪薬ももらえたし、「今日は早めに寝るね」と言って部屋にこもることもできた。これで違和感は最小限に抑えられたはずだ。後はぽっぷに回復してもらうのみ。

 それから夜通しの看病が始まった。意識がもうろうとしている本物のぽっぷに風邪薬を何とか飲ませ、見習い服に着替えると魔法で看病セットを出す。一緒にいたゼピュロスも看病したがっていたが、ぬいぐるみのような身体ではタオルも絞ることも出来ない。本人曰く『風の神様』だそうなので、部屋に気流を作り、暖房で暖まった空気をかき混ぜてもらうことにした。扇風機でも出来ることだったが……まあ、それは言わないでおいてあげよう(^^;
 それにしても意外だった。ぽっぷが家族にも話せない禁断の恋に身を焦がしていたなんて……。だけど、どうして夫であるゼピュロスは、ぽっぷのことを『クロリス』としか呼ばないのだろう? ゼピュロスに聞いても、「クロリスはクロリスだピュ」としか答えてくれないから、ファファにはさっぱり判らなかった。

 朝になり、ぽっぷの様子を見に来たはるか母により、病気が家族に発覚する。ファファはベッドの下に隠れて様子をうかがっていたが、昨夜打っておいた布石のおかげで、さほど大事にはならなかったようだ。熱はだいぶ下がっていたものの、学校に行ける状況ではなかったため、病欠が確定。はるか母に汗で濡れたパジャマの着替えを手伝ってもらい、なんとかおかゆを食べ、薬を飲むと、ぽっぷは再び深い眠りについた。きっと次に目覚めた時には、いつものぽっぷに戻っているはず。そうしたら真っ先に挨拶しよう。話したいことは山のようにあるのだから……

 ふい気配を感じ取り、窓を見ると、涙目の妖精ナージャが窓ガラスに張り付いていた。何か嫌な予感がするので見なかったことにしたかったが、そういうわけにもいかない。ファファは仕方なく窓を開けてナージャを迎えた。

「うえ〜ん、助けてよファファ〜! このままじゃ、マジョローズにセッカンされちゃうよ〜(TT)」
「い、一体どうしたんです?」
「マジョローズがさぁ、昨夜壊した魔法堂の修理もろくにしないで学校に行っちゃったのよ〜! しかも後のことは、ぜ〜んぶ私に丸投げするんだよ!」
「それは大変ですねえ……でも、ナージャさんに修理なんて出来るんですか?」
「歌と踊りは好きだけど、カワイイだけが取り柄の私が、修理なんて出来るわけ無いじゃない!」
「………はあ。でも、マジョローズさんって、意地悪しているように見えても、無理難題を押しつけるような方ではありませんよね? もしかして………私にやらせるつもり……ですか?」
「ご名答♪ ねえ、助けてよファファ〜〜!」
「………す、すみません。ちょっと無理です」
「え〜〜! どうしてよ〜〜」
「私はぽっぷちゃんの影武者ですし、ぽっぷちゃんのお役に立ちたくて、人間界にやってきました。ぽっぷちゃんのため以外に魔法は使いたく無いんです。……というのは建前でして。実は、もう魔法の実がほとんど残ってないんです」

 実際、ファファの手元に残された魔法の実は3つしかなかった。ピコットポロンに入れた実に残されたマナはあと僅か。いつ使い尽くしてもおかしくない。クルリンコールに入れた実も、マジョフブキとの連絡用に欠かせない。そしてリズムタップに収納している最後の一つは、栽培用に残したものだった。ぽっぷを助けるためならともかく、それ以外のために使う余裕は全くないのだ。

「ああ、それなら全然問題無いわよ。マジョローズがちゃんと用意してくれたから」
「え? もしかして魔法の実を用意してくれるんですか?」
「ま〜さか〜♪ マジョローズがあんな高いもの買ってくれるわけ無いじゃん♪ 魔法玉よ魔法玉♪」
「あの……魔法玉はピコットポロンには使えませんよ?」
「でもポロンになら使えるでしょ? ほら、魔法堂のオーナーは弟子を持ったときのために備えて、タップの購入を義務づけられているじゃない♪ それを使えばいいのよ♪」
「え????? まさか……、私をマジョローズさんの弟子第1号にしちゃう気なんですか?」
「大せいか〜い♪」
「それって……いいんですか? 私、すでに1級見習い資格持ってますし、タップを重複して所持することになっちゃいますけど」
「さぁ? いいんじゃない? もとよりあんた規格外の妖精なんだし、魔女界の常識に捕らわれるなんてグノコッチョウよ! グノコッチョウ!」

 確かに今のファファは魔女界を捨てた身だ。無意味な心配かもしれない。ただ、今のファファには別の問題があった。ぽっぷが目覚めたら真っ先に挨拶したいのだ!! いつ目覚めるのかわからないのに、外出なんてしたくはない。何か断る良い方法はないかと考えていると……

「クロリスならオレが看てるから心配ないピュ!(キリッ」
「え、え〜っと?(^^;、ほらっ、そこのぬいぐるみのお兄さんも良いって言ってるじゃない。だからお願いよ〜」
「オレはぬいぐるみじゃなくて、西風の神ゼピュロスだピュ」

 ぽっぷの旦那様に外堀を埋められてしまった……。(風の神様なら空気読んでよ!)と、心の中で魂の叫びをあげるファファであった。

「でも、もう一つ問題があります。私はあくまでぽっぷちゃんの影武者。人間にはもちろんですが、なるべく人外の方々にも存在を知られたくないんです。誰にも気付かれないよう移動する方法はありますか?」
「う〜〜〜ん、そうねぇ……。あ、そうだ! 私のタテガミに隠れればいいのよ!」

 そう言うと、妖精ナージャはネコに変身した。影武者としての道を選んだファファには無い能力だが、魔女のパートナーとなる妖精の標準的な能力である。ただ、ナージャの変身したネコの姿は少し『個性的』だった。オスライオンのようなタテガミのある、白い毛並みの小型犬にしか見えないのだ。
 ファファが試しに背中に乗ってみると、確かに上手い具合に隠れることが出来た。これなら誰にも知られることなく移動できそうだ。だけど、ネコナージャは目立ちすぎる。タテガミに隠れられても、これでは意味がないのでは? そんな不安がよぎったが、今は何も考えないことにした。とにかく魔法堂の修理を速攻で終わらせよう。急いで帰ってくれば、きっと間に合う。
 ファファとナージャはそのまま窓から屋根に出ると、窓の戸締まりを確認してから魔法堂へと出発する。

「じゃあナージャさん、全速力でお願いします!」
「おっけー♪ 振り落とされないように、しっかり捕まっててよ!」

 そして二人の妖精は風になった。


Scene5-1◆迷い人(second day)

「ありのまま 今起こったことを話すぜ!
『ローズちゃんの手を引っ張って学校に向かっていたと思ったら、
いつのまにかローズちゃんに引っ張られて人気のない山林に来ていた』
な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…
催眠術とか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
「ナンですカ、それ?」
「あれ? ポルナレフ知らない? この時代の人なら誰でも知ってるって歴史の先生から聞いてたけど」
「ワタシ、ニホンのこと、まだワカリまセンデス」
「そっか。ローズちゃんってイギリス人だものね。知らなくて当然かぁ…。せっかくがんばって覚えたのに〜〜〜……って、それどころじゃないんだけど」
「ソーデスよふぁみチャン! ジンメンどりデスよ! ジンメンどり! Greek mythologyのHarpyみたいでシタ!」
「いや、それもどうかと思うけど……(^^;」

 ありのまま、今起こったことを書くとこうである。
 ふぁみが遅刻すまいと、ローズの腕をつかみ、美空高校に向かって必死に走っていたところ、突然ローズが「人面鳥を見た」と騒ぎだし、今度はローズがふぁみの腕をつかんで路地裏に向かって走り出した。そこまではまあいい。人面鳥もただの見間違いかもしれないし。
 問題はここからだ。路地裏を抜けると、見たこともない山林が現れたのだ。振り返ると路地裏どころか住宅街自体が消えている。車が通れるほどの山道はあるものの、辺りに人家は見当たらない。携帯を見るとアンテナはかろうじて一本立っていた。少なくとも日本国内ではあるようだ。
 ローズが魔法を使った形跡もないし、使う意味もない。となると、空間の歪みか何かに偶然飛び込んでしまったと考えるのが妥当だろう。何者かによって人為的に作られた移動用の空間トンネルだろうか。それとも『ペガソスクライシス』によって生まれた空間のひずみだろうか。

「ア〜〜!! イマしタ! ジンメンどりデス!」

 ローズが指差す先の木を見ると、確かに枝に鳥らしきものが止まっているようだった。しかし、ちょうど逆光になっていて、ふぁみにはよく見えない。

バサッ バサッ

 突然、背後で羽ばたく音がした。ふぁみが振り返ると、やはり木の枝に鳥らしきものが止まっていた。今度ははっきり見える。間違いない。人面鳥だった。男の子のような顔をした人面鳥は、獲物を狙うかのように、ふぁみをじっと見つめていた。
 あれ? もしかして……これってヤバくない?

バサッ バサッ

 3羽目が現れる。気がついたときには、二人は人面鳥に囲まれていた。


Scene5-2◆山林のトランぺッター(second day)

 もしかして絶体絶命?と、ふぁみが思った矢先、突然トランペットの音色が山林に鳴り響いた。情熱的で魂を震わせる演奏。ただし、お世辞にも上手とはいえなかった。世間でいうところの『騒音』の部類に入る。思わず耳を塞ぎたくなるほどの酷さだ。

「オゥ〜! ジンメンどり、飛ンでイってしまいまシタ!」

 ローズの落胆の声を聞き、ふぁみが辺りを見回すと、人面鳥は消えていた。トランペットの響きに驚いて逃げ出したのだろうか? もしかして、命拾いした…のかな? 何はともあれ気持ちの悪いものがいなくなり、ふぁみはホッと胸を撫で下ろした。
 トランペットの音色は、なおもけたたましく響いていた。生演奏なら人がいるということだが、スピーカーで音を流しているだけかもしれない。例えば、畑を荒らす害獣対策などで定期的に流しているとか…。いずれにせよ、見知らぬ山林で行くあてもない。二人は音をたよりに山道を歩き出した。
 1分ほどでたどり着いた『騒音源』には、やっぱり人がいた! 林の切れたところで、緑色の髪の大人の男性が、崖に向かってトランペットを吹いている。そばには男性のものと思われるサイドカーがあり、どことなく『さすらいのヒーロー』といったカッコよさがあった。トランペットの演奏が上手ければ、惚れてしまっていたかもしれない。
 男性は駆け寄るふぁみたちに気づくと、驚いて演奏をやめた。

「うわっ! な、何だ君たちは?」
「と、通りすがりの女子高生です!!」
「ヂョシコーセイ、デス!!」
「いや、それは制服でわかるけど…、どうしてこんなところを通りすがっているんだい?」
「それがその、私たち転校してきたばかりで、今日が初登校だったんですけど、道に迷ってしまいまして」
「マイゴノマイゴノ子猫ちゃん、デス♪」
「それはすごい方向音痴だな。何をどうすればこんな人里離れた山林にまで迷えるだろうな。もしかして、無意識に超能力でも使ってしまったのかい?」
「あはははは、そ、そうかも(^^;」
「Oh! ふぁみチャン、ちょーのーりょく使エルですカ! ナラバ、今スグ愚民どもスベテに叡智をサズケテミセロ〜〜!!(^o^)」
「あ、この子のことは気にしないでください。日本に来たばかりで、よくわかってないんです。
 それであの、ここってどこなんでしょう? 美空市なんですか?」

「美空市は美空市だけど、だいぶ山奥だよ。一般道に出るには、男の足で歩いても1時間はかかる」
「あう〜〜〜。そうなんですかぁ〜。ローズちゃん、私たち遅刻確定だよぉ〜(TT)」

 一刻も早くどれみおばあちゃんとクラスメイトになりたいふぁみにとって、それは人面鳥や超常現象よりも、遥かに深刻な問題なのであった。


Scene5-3◆キツネとタヌキ(second day)

 やれやれ。二人とも怪我がなくて何よりだった。ハルピュイアに囲まれてた時はどうなるかと焦ったが、警戒心が強く、トランペットの音色だけで逃げ出してくれたのは幸いだった。ポセイドン氏の情報通りだ。彼をどこまで信じてよいかはまだわからないが、提供してくれた情報自体は信じても良さそうだ。
 矢吹鬼はそばにいる美空高校の制服を着た2人の少女を交互に見ながら、ほっと胸を撫で下ろした。

 桃色の髪の少女は…多分日本人だと思うが…携帯電話で学校に連絡を入れていた。目の前には誰もいないのに、ペコペコと頭を下げる様は滑稽だが、同時にかわいらしくもある。二人そろって遅刻することを報告しているようだが、理由を説明するのに苦心しているようだった。
 西洋人の特徴をそなえた金髪の少女は、片言の日本語をしゃべり、時々英語の独り言をつぶやきながら、青い瞳に好奇の光を宿らせて、サイドカーを興味深そうに見つめている。彼女は遅刻することなど意にも介していないようだった。こちらの視線に気がつくと満面の笑顔を見せるので、矢吹鬼もつられて笑顔で応えた。

「トコロで、ど〜してtrumpet、吹いてたデスか?」
「まあ、練習というか……気晴らしかな。ここなら滅多に人は来ないし、誰にも迷惑はかけないからね。だから君たちが来たときは、おじさんビックリしたよ」

 それにしても、この娘たちは何者だろう。空間を操る超能力者か? 某国の女スパイか? 異世界からの来訪者か? それとも魔女…かな? いずれにせよ、かわいらしい少女の姿をしているからといって侮ることはできない。自覚があるかないかは別として、少なくともどちらか一人は特殊能力を備えているはずだ。何重にも封印した秘密の空間トンネルを、普通の人間が通り抜けられるはずがないのだから。
 もっとも、『美空の里』に害をなさない限り、来訪者の行動に制限を設けないのが、ここのルールだ。犯罪行為などは警察の管轄なので、我々『守護者』は黙認する。もちろん、監視はさせてもらうから、プライバシーまで保証する気はないが。……別にのぞきを正当化している訳じゃないからな。念のため。
 泳がせておけば、いずれシッポを出すだろう。それまではこちらも一般人を装っていればいい。わざわざこちらから手の内を見せる必要などないのだ。

「あ、あのぉ〜。かっこいいお兄さん。ちょっとお願いがあるんですけど〜〜。私たちをこの乗り物に乗せてもらえませんかぁ〜?(TT)」

 電話を終えた桃色の髪の少女が涙目で訴えてきた。確かに歩きで山を下るのは酷だろう。空間トンネルを使えば一瞬で美空町に戻れるが、おいそれと使う訳にはいかない。奇しくもサイドカーは3人乗りだが、舟の乗車スペースには一人しか乗せられず、もう一人は本車の後部に乗せることとなる。敵か味方かわからぬ者に無防備な背中を晒さねばならないとは……。やれやれ、緊張感あふれるドライブになりそうだ。
 矢吹鬼は冷や汗をかきながら、作り笑顔で快く了承するのだった。

 『過去』からの来訪者ローズ。『未来』からの来訪者ふぁみ。そして『現在』を生きる守護者矢吹鬼。いずれも手の内を明かせないために能力を使えず、一般人を装うタヌキとキツネであった。3人の化かし合いは、混沌の度合いを深めながらも今しばらく続きそうである。


Scene6-1◆ファファの原風景(second day)

「ピピット、プリット、プリタンペペルト、MAHO堂よ、元に戻れ〜!」

 標準の見習い服を着た影武者ぽっぷが庭で呪文を唱えると、半壊した魔法堂は光に包まれ、かつての姿を取り戻した。魔法の成功を確認した影武者ぽっぷは変身を解き、妖精ファファの姿へと戻って一息つく。そこに妖精ナージャが心配そうな顔をして近寄ってきた。

「ふらふらしてたけど、ファファ大丈夫?」
「あ、はい。変身さえ解いてしまえば、元気いっぱいです」
「こんなときに無理させちゃってごめんね。わたし自分の事ばっかり考えてて、ぽっぷちゃんが病気で倒れてたって事、すっかり忘れてたよ」
「仕方ないですよ。マジョローズさんのせっかんは恐いですもの」
「あははは、面目ない」(^^;

 妖精が主の姿に変身するとき、主の記憶や人格を除いたあらゆるものを正確にコピーする。外見、服装、そして体調すらも。妖精ファファが影武者ぽっぷに変身したとき、病気で衰弱した体力までコピーしたため、危うく気を失うところだったのだ。

「それにしても、相変わらず鮮やかねえ。マジョローズがあんたをアテにしたくなるのもわかるよ」
「マジョローズさんだってすごいじゃないですか。『壊す』ことに関しては、魔女界一の腕前ですよ」
「いや、それってゼンゼン褒め言葉になってないから」(^^;

 魔法にも向き不向きがある。マジョローズは壊す魔法……いわゆる『攻撃魔法』は得意中の得意だが、修復魔法はドジッ子並みに苦手である。魔女界では珍しいタイプなので重宝されたが、能力が能力だけに、マジョローズを危険視する魔女も少なくなかった。先代女王であるマジョフブキが後ろ盾でなければ、とっくの昔に魔女界から追い出されていただろう。

「でも気のせいかな。なんだかずいぶん建物のデザインが変わったような気がするんだけど…」
「え? そんなことありませんよぉ。昔のまんまです。私が初めて見たときの」
「あれ? 看板がある。なんて書いてあるんだろ? え〜っと、フラワーガーデンMAHO堂……」

 それは確かにファファが初めて見たMAHO堂の姿であった。

「あの〜。ファファさん? あなたの匠ぶりには驚嘆しておりますが、できればリフォームじゃなくて、原状回復してほしかったんですけど…(^^;」
「え? 素敵じゃないですか花屋さん。ハナちゃん……じゃなくて、今上女王様もここで育ったんですよ。マジョローズさんも花屋をやってくれると嬉しいんですけど」
「いや、無理だから。こう言っちゃあなんだけど、子育ても花を育てるのもマジョローズには絶対無理」
「じゃあ、後で元に戻しますから、少しばかり思い出にふけってもいいですか? 私にとってフラワーガーデンMAHO堂は、懐かしい原風景の一つなんです」
「かまわないけど程々にね。あんまり長居してると、ぽっぷちゃん目を覚ましちゃうよ」
「あっ、確かにそうですね。じゃあ程々にふけります」

 扉を開けると、花の匂いとともに懐かしい風景が広がる。花で満たされた店内も、温室に鎮座するライフウッドも昔のままだ。何もかもファファの記憶通りに再現されている。
 あの頃…まだ幼稚園児だった春風ぽっぷは、4人の『姉』達が出かけている間、留守を預かり、よく店番をしていた。ファファも一生懸命手伝ったものだ。だけど『スイートハウスMAHO堂』や『おしゃれZAKKA MAHO堂』はいささか印象が薄い。小学生になったぽっぷがピアノに専念するようになり、MAHO堂へ訪れる回数が減ったためだ。ファファにとり、MAHO堂といえば、やはり『フラワーショップ』なのだ。

★  ★  ★

「これは…一体どうなってるの? 僕は夢を見ているのかな? それとも知らない間に8年前にタイムスリップでもしたのかな?」

 ここにもう一人、『フラワーショップMAHO堂』に原風景を感じる者がいた。MAHO堂の入り口から看板を見つめる魔法使い……。それはFLAT4のフジオであった。


Scene6-2◆フジオ大使(old day)

 2003年3月。留学先の小学校を卒業したFLAT4は、それぞれの道を歩みだした。暁はどれみを追いかけ美空中学へ。トオルはおんぷを追いかけ遠近学園へ。レオンはあいこを追いかけ大阪の中学へ…。それぞれがマイスイートハートを求め、それぞれの学校へと入学していった。しかし、フジオだけはそれができなかった。愛しのはづきが入学したのはカレン女学院だったのだ。魔法使いは人間界では男子と認識され、女子校に男子は入学できない。しかしフジオは閃いた。だったら、魔法で女の子に変身すればいいじゃない! そこでフジオは、双子の姉フジコを名乗り、カレン女学院の入学試験に挑むべく、美空市へ向かう。

 双子の姉弟フジコとフジオ………いや、なんでもありません。

 入試は余裕で合格した。これではづきちゃんと楽しい学園生活を送れるのだ。フジオは喜びを分かち合おうとFLAT4に報告する。ところがみんなはうらやまけしからん!」と烈火の如く怒りだし、魔法使い界の王様からも入学を止められてしまう。
 フジオは納得できなかった。天命に誓ってもいいが、はづきへの想いは不純なものでは決してない。魔法で完璧に女体化する以上、女子に裸を見られても、水着姿なら男子に見られても困らない。そして本物の女の子以上に『女の子』する自信もあった。しかし「そういう問題ではない」のだという。自分の望みが叶わぬと知ったフジオの落胆は激しかった。ショックのあまり、魔法使い界の自宅に引きこもってしまった。エリートであるフジオにとり、それは初めて経験する屈辱であり、挫折だったのだ。

 それから1年を経過しても、フジオは立ち直る気配を見せなかった。数少ないエリート魔法使いがこのまま朽ち果てては、魔法使い界にとって大きな損失である。そこで王様は、思い切った人事を考える。フジオを魔法使い界の特命大使として、美空市へ派遣させることにしたのだ。それは重い義務と責任が伴う重職であったが、フジオにとっては、はづきに近づく一番確実な方法でもあった。何故なら魔法使い界が人間界での交渉先に選んだのは、国連でも日本政府でもなく、藤原家だったからだ。


Scene6-3◆フジオメモ(second day)

 フジオが魔法堂の異変に気づいたのは、たまたまであった。たまたま魔法堂の前を通りかかり、たまたま魔法堂を見つめていると、たまたま飛んでいたスズメが空中で消えたのだ。最初は空間に歪みができたのかと思ったが、消えたスズメが何事もなく現れたので、幻惑魔法による偽装であると気づいた。
 一見すると魔法堂は、2003年の春に『閉店』したままの寂れた姿である。昨日までと何も変わらない。しかし、今のように幻惑魔法はかけられてなかったはずだ。そこでフジオは記憶に間違いがないかを確認すべく、メモ帳を取り出した。

 人間は誰しも、五官で感じたことのすべてを記憶している。しかしそのまま記憶していては膨大な情報量に溺れてしまうため、大半の記憶は脳の奥底へしまわれ蓄積されてゆく。それはパソコンのデスクトップからハードディスクに書類を移動させる作業に似ている。メモ帳とは、蓄積された情報の海から必要とする記憶を取り出すための、原始的な検索装置なのである。
 フジオは魔法使いの中でも飛び抜けた記憶力を持っていた。過去のメモに触れ、見返し、記憶を引き出すことで、過去の経験をただ思い出すだけでなく、リアルに追体験できるのだ。昨日のメモに触れることで、フジオの心は昨日の記憶に戻っていた。昨日の魔法堂の前を通り過ぎたときに。フジオが魔法堂を見つめたのは数秒程度だが、情報分析するには十分だった。やはり幻惑魔法はかけられていない。
 現実に戻ったフジオは目を凝らして、幻惑魔法で巧妙に偽装された真実の魔法堂を見る。そこに現れたのは『フラワーショップMAHO堂』であった。フジオは魔法で2000年のメモ帳を取り出し、当時の『フラワーショップMAHO堂』を見たときの記憶を引き出した。比較してみると、8年もの時の流れを感じさせないほどにそっくりな佇まいであった。そこで突然正面のドアが開き、小学生の少女が現れた。フジオは息をのむ。

「そんな……あれは、はずきちゃん?」

 はづきだけではない。あいこも、おんぷも現れた。そして最後に現れたどれみは、赤ん坊のハナちゃんを抱いていた!!
 ……フジオは大きくため息をついた。なんのことはない。それはフジオの過去の記憶であった。記憶が鮮明すぎるのも考えものである。現在と過去の記憶がごちゃ混ぜで訳が分からなくなってしまう。フジオがメモ帳を閉じると、リアルな過去映像には霧がかかり、徐々に意味消失していった。

 美空町の魔法堂が近々再開されるという話は、魔女界から外交ルートを通して、魔法使い界にも公式に伝えられていた。新たなオーナーの名はマジョローズ。年齢はたしか117歳だったか。ずいぶん若い魔女だ。実質、FLAT4よりも年下である。経歴は不明だが、その年で魔法堂のオーナーに選ばれるくらいだから、エリートにせよ、たたき上げの切れ者にせよ、ただ者でないことは確かだ。
 彼女が何を考えて魔法堂をかつての姿に変えたのかは判らないが、フジオにとっては素敵なサプライズには違い。何しろ、かわいらしい幼いはづきと思わぬ形で『再会』できたのだから。もちろん、美しく清楚に成長した今のはづきも素晴らしいが……。

「それにしても、はずきちゃん元気でいるかな…。昨夜はだいぶ無茶をしたって聞いたけど……
よぉ〜し、決めた! 今夜ははづきちゃんのお見舞いに行こう!」

 そう決意したフジオは、決して戻ることのできない懐かしい思い出を噛み締めながら、魔法堂の前から立ち去るのであった。

★  ★  ★

「……行っちゃったね」
「とりあえず私たちは気づかれなかったみたいです。はぁ、よかった」

 草葉の陰から二人の妖精が現れる。ナージャと、変身を解いてもとの姿に戻ったファファであった。

「でも、雰囲気からして『フラワーショップMAHO堂』は見えていたみたいだよ。幻惑魔法を見破るなんて…何者だろ」
「多分……FLAT4のフジオくんだと思います」
「え! FLAT4? ……FLAT4って確か、魔法使いのエリートだよね? 本当にFLAT4?」
「はい。間違いありません」
「でも、でも、スカートはいてるよ? 髪は短いし胸もなさそうだったけど、なんかマジョローズよりもエロカワイイ感じだし、どう見ても女の子じゃん」
「そうなんですけど……。だけど間違いありません。フジオくんですよ」
「なるほどねぇ…。混沌の街…かぁ」
「こんとんの街? ナージャさん、なんですそれ?」
「マジョローズが言ってたの。美空市は魑魅魍魎が闊歩する混沌の街なんだって。魔女や魔法使いだけでなく、様々な属性の、様々な理念を持った、様々な人外の者が、人間のフリをして生活しているんだって。いくつかのル−ルさえ破らなければ排除されることはないから、あちこちの『はみ出し者』が自分の居場所を求めて美空市に住み着いているんだって。だったらあんな魔法使いがいても不思議はないかなって思ってさ」
「それで混沌の街ですか。言い得て妙ですね」
「あんたの『居場所』のぽっぷちゃんが美空市にいるのも、もしかしたら偶然じゃないのかもね」
「でも、ルールって何なんでしょう? 私、美空町には3年いましたけど、聞いたことありませんよ」
「まあ多分、人殺しとかしちゃダメっ! とかじゃないの? 後でマジョローズに聞いておくよ」
「はい。お願いします」
「じゃあそろそろ、魔法堂を元に戻してくれないかな」
「はい。わかりました〜……あっ!」
「なに? どうしたの?」
「魔法玉使い切っちゃったんですけど……ナージャさん、予備の魔法玉あります?(^^;」
「ぶ〜〜〜〜〜!!(><)」


Scene7◆ふぁみの悲しみ(second day)

「あっ〜〜〜!」

 桜田ふぁみの悲鳴にも似た叫び声が、昼休みの職員室に響いた。周囲の目など気にしてなどいられなかった。叫ばずにはいられなかった。
 夢にまで見た、どれみおばあちゃんとの楽しい学園生活。その実現のため、ふぁみは1週間かけて周到に準備してきた。どれみおばあちゃんのクラス、友人関係、部活動、アルバイト先、下校のコース等々、あらゆる事を調べ上げ、偶然を装うべくあらゆる対策を練りあげた。その全てが一瞬にして水泡に帰してしまったのだ。ローズ・マリアの指パッチンによって…。
 ついさっきまで、ふぁみはどれみのいるB組に、ローズ・マリアはA組に編入される事になっていた。ところがローズ・マリアの魔法により、入れ替えられてしまったのだ。教師達が何ら疑問を抱かないことから察するに、書類だけでなく、教師達の心も操作したに違いない。なんの迷いもなく禁断魔法を使うとは……。

「ど、どうした桜田!」

 心配そうな教師の顔を見て、ふぁみはようやく自分を取り戻す。

「あ、あ、いえ、すみません。お財布忘れたことに気付きまして……」

 呆気にとられていたローズ・マリアは、一瞬目つきが鋭くなるが、すぐにニッコリと微笑んだ。そして、ふぁみに質問する。

「ふぁみチャン♪ アナタ、どこノ魔法堂で働いテタ…ですカ?」
「……え? あっ! あはははははっ え、え〜っと、東北の……宮崎…だけど」
「そーデスか。アナタとは、仲良ク出来そーデス♪」

 ふぁみが元魔女見習いであることを、マジョローズに見抜かれてしまったようだ。あれだけ派手に驚いたのだから、気付かれない方がおかしい。まあ、それ自体は大した問題ではない。むしろ秘密を共有するきっかけが出来たと喜ぶべきだろう。未来から来たことさえ知られなければ、問題は無いはず。仮に問題があったとしても、どれみおばあちゃんのクラスメイトになれなかったことに比べれば、些細なことである。

(うううっ、若くてかわいくても、やっぱりマジョローズさんはいぢわるだぁ〜〜〜(TT))

★  ★  ★

「東北の……宮崎……?」
「たしか、宮崎県と言えば九州ではありませんでしたか? 東北は宮城だと思うのですが。どうやら地理が苦手な娘のようですね」
「東北の……宮崎……」
「でも……、宮城にせよ、宮崎にせよ、そのようなところに魔法堂はあるのですか?」
「東北の……宮崎……」
「あの……マジョフブキ様?」
え? ああ、魔法堂にあたる屋敷なら、全国の都道府県にあるわよ。でも、大半は閉鎖されたままで機能していないはず。それよりも東北の宮崎よ、東北の宮崎。どこかで聞いたような気がするのだけど……。
 ああっ! 思い出しました! 
『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』第2話『ハナちゃん6年生になる!』

です!」
「………はい?(^^;」

 説明しよう! 水晶玉を通して常にどれみ達の動向を見守っていたマジョフブキは、4年にもわたって映像記録を残していた。それを『おジャ魔女どれみ』と言うタイトルでDVD-BOX化し、魔女界で売り出していたのだ!! 誰でも合格すると言われた9級見習い試験に見事落第した伝説を持ち、今上女王であるハナちゃんを育てた『聖母』でもある春風どれみに迫る迫真のドキュメントは、魔女界で記録的大ヒットを飛ばすのであった。1年目は『無印』、2年目は『#』、3年目は『も〜っと!』、4年目は『ドッカ〜ン!』と名付けられ、スペシャル版として『ナイショ』も製作された。ただ、魔女界の『どれみ』シリーズには、ふぁみにかかわるエピソードのみ存在しない。映像記録こそ残されてはいるが、4年にわたる膨大な記録に埋もれてしまっていたのだった。

「あれはハナちゃんの出身地を偽るためについた、どれみちゃんのウソでした。まさか同じようなことを言い出す子が現れるなんて……。偶然の一致とは思えません。一体どんな謎が秘められているのでしょう!」
「偶然の一致だと思いますが……」
「もう、無粋ですね! マジョリン、あなたはこの『歴史ロマン』がわからないのですか?」
「れっ、歴史ロマンなのですか!?」
「そうです。もはやどれみちゃんは、魔女界の歴史教科書に載せるべき偉人ですからね。将来大河ドラマ化するためにも、どれみちゃんに関わる子たちも要チェックせねば♪」
「……そういえば、春風邸は魔女の間で人気急上昇中だそうですね。観光スポットとして……。マジョフブキ様が煽ったことも一因かと思われますが?」
「うっ…。煽りすぎたことは反省してますよ。ですから不用意に近づかないよう魔女たちには勧告してますでしょう?」
「勧告というより警告のような気がいたしますが……。どれみちゃんたちはともかく、ファファの事が心配です。もしもの時、我々はあの子をかばえないのですから」
「あらまあ、いつもは非情なマジョリンが妖精の心配をするなんて! 鬼の目にも涙かしら?」
「いえいえ、『吹雪の女王』と呼ばれ恐れられたマジョフブキ様ほどではございません」
「ウフフ…」
「フフ……」

(こ、こわいパオ、今日の二人はマジョローズたんよりこわいパオ〜〜(TT))

 寒くないのに震えが止まらないパオちゃんであった。


Scene8◆ぽっぷ(second day)

 ナージャに送ってもらい、ファファが春風邸にたどり着いたのはお昼前だった。魔法堂の修理自体にさほど時間は取られなかったが、帰路で人間や動物になりすました『人外の者』に幾度も遭遇したため、帰宅に手こずってしまった。『人外の者』と言っても単に人間でないだけで、誰かに危害を加える危険な存在という訳ではない。しかし、ファファは建前上ここにはいない事になっているため、可能な限り接触を避けねばならなかったのだ。ネコ?の姿になった妖精ナージャのたてがみに隠れていても、安心はできない。
 それにしても……美空町はいつから『人外の者』の吹きだまりになってしまったのだろう。少なくとも、6年前にはこれほど頻繁に遭遇する事はなかったはずだ。それとも……幼くて気づかなかっただけで、むかしからたくさんいたのだろうか? 人外のるつぼ美空町……。

 ぽっぷの部屋にもどると、ぽっぷはまだ眠っていた。側にはゼピュロスがいて、ジッとぽっぷの顔を見つめている。

「ただ今帰りました。ぽっぷちゃんの様子、どうですか?」
「ちょうど良いところに帰ってきたピュね。クロリスの『依り代』はあと5分ほどで目を覚ますピュ」
「え? そんなことが判るんですか?」
「俺とクロリスは一心同体だピュ。その程度の事なら簡単に判るピュ」
「う…そ、そうでした。ゼピュロスさんはぽっぷちゃんの旦那様ですものね」
「うむ。さすがはクロリスの妖精だピュ。物分かりが良いピュね」
「はい。恐れ入ります」

 ファファは少し悔しかった。影武者であるファファは、誰よりもぽっぷを知っていると自負していたのに、自分以上にぽっぷを知っているかもしれない者(物?)が現れたのだ。だけど、それも仕方がないのかもしれない。相手はぽっぷの旦那様なのだから……

「じゃあクロリスの事はお前に任せるピュ」
「え? あ、はい。ゼピュロスさんはどうなさるのですか?」
「俺はしばし風を感じてくるピュ。ま、有り体に言えば情報収集だピュ」
「情報収集…ですか。わかりました。後はお任せください」
「うむ、では行ってくるピュ」

 ゼピュロスは窓から外に出た。ナージャも後でまたくると言い残し魔法堂へ帰っていった。二人朋生を聞かせてくれたのだろうか。部屋にはファファとぽっぷだけが残った。
 ファファはぽっぷを見つめながら、昨夜の事を思い出す。破壊されてゆく美空市の街並。夜空を暴走する天馬。孤独な戦いを続ける天空のプリキュア。そしてファファの前で取り乱し、泣き崩れるぽっぷ……。マジョフブキから聞かされていた以上に、ぽっぷは過酷な戦いをしている。はたしてぽっぷの役に立てるのか? ぽっぷの足手まといになるだけではないのか? 魔女界に帰った方がよいのではないか?
 弱気になっちゃだめだ! 私は妖精ファファ。ぽっぷちゃんのために生き、ぽっぷちゃんのために死ぬ。それが私の存在理由。そのためだけにこの6年、血のにじむような修行を積んできたのだもの。
 そして5分が経過し、ぽっぷは目を覚ました。迷いを断ち切ったファファは、ぽっぷに話しかける。

「おはようございます、ぽっぷちゃん♪」


Aパート完。引き続きBパート


Aパート S-0, S-1, S-2, S-3, S-4, S-5, S-6, S-7, S-8,
 
オモイドウ
このサイトはリンクフリーです。 URL◆http://omoi.lolipop.jp