至宝の狂想曲 我は希望 
◆えりかの背信

 午前中の授業が終わり、春風ぽっぷは周りの席の子達と机を囲んでお弁当を広げる。いつもながらのクラスメイトとのたわいのない会話を楽しみながら、ゆっくり昼食を食べていると、クラス1の情報通で噂好きな子が、今日も話しかけてきた。

「ねえねえ春風さん! デビル委員長のウワサ、知ってる?」
「デビル委員長て(^^;……。玉木さんの話しなら、クラス内のいじめを一睨みでやめさせたって昨日聞かせてもらったけど……。他にもあるの?」
「私たちってさ、学校で指定されているバッグを使ってるでしょ?」
「そりゃあ、丈夫だから大事に使えば6年間くら余裕で保つし、学校で決められてるもの」
「でもあれってね、校則で義務づけられているワケじゃないの。」
「へぇ〜、そうだったんだ。知らなかった。でも、カレ女のステータスみたいなものだものだし。誰だって使うでしょ? ねえ?」

 そう言って仲間に同意を求めると、一緒にお弁当を食べていた3人のクラスメイトは一様にうなずいた。

「たしかに私たち庶民にとってはそうだけど、そう思わない方々もいらっしゃるわけですよ。こだわりのあるおしゃれさんとか、お金持ちのお嬢様とか。で、そういう方々は、一部の例外を除いてブランドもののバッグを使っていると」

 噂好きっ子がそう言うと、クラスメイトはやはり一様にうなずいた。どうやら、そのことを知らないのは、ぽっぷだけのようだ。クラスにはブランドバッグを使っている者などいなかったし、ピアノのレッスンなどで忙しいぽっぷには、人の持ち物に関心を持つ余裕など無かったので、仕方ないことかもしれない。

「デビル委員長は、何といっても美空市一のお金持ち玉木一族のご令嬢なんだから、ブランドバッグを使うのは、まあ当然よね。だけど、その使い方が凄いのよ! なんと! 持ってくるバッグが毎日違うの! わかりやすく言えば、毎日使い捨てにしちゃってるらしいのよ!!」
「え〜〜〜〜〜!!……って、いやいやいや。それは流石にウソでしょ! お金持ちなんだから、ブランドバッグをたくさん持ってるのは不思議じゃないし、その日の気分によって使い分けてるだけ何じゃないの?」
「まあ、確かに使い捨てってのは言い過ぎかもしれないわね。同じデザインのバッグが2〜3日続くこともあるし。でも、どういうワケか、いつまでたっても新品同様で古びないし、昨日付いていたはずの傷が次の日には無くなってたりするんだよ! 春風さんはこれをどう論理的に説明する?」
「う〜ん……怪奇現象でなければ、痛むごとに買い換えてるのかもしれないねぇ。でも、だとしても別にいいんじゃない? 玉木さんお金持ちなんだし。それにお金を使わなきゃ日本の景気は回復しないんだからさ。むしろお金を持っている人にはジャンジャン使ってもらわないと(^^)」
「それはそうだけどさぁ。もったいないと思わない? ほしいとか思わない?」
「ううん、別に。人は人だし、自分は自分だもの。無い物ねだりはしない主義なんだ。空しくなるから」
「そうなんだぁ〜。春風さんて、出来た子なんだねぇ……」

 そう言うと、噂好きっ子はうなだれたまま自分の席に戻っていった。まるで最後の希望を打ち砕かれたかのように……。そんな小さな挫折を何度も繰り返し、少女は大人へと成長するのだ。そう言うことにしておこう、うん。
 ぽっぷは弁当箱を片付けながら考える。今の話が本当なら、何かヘンだ。いとこの麗香さんならまだしも、えりかちゃんはそこまでブランド志向では無かったはず。中学生になって趣向が変わったのだろうか? そんな風には見えなかったけど……

★  ★  ★

 放課後。玉木えりかは迎えに来た車の後部座席に乗り込むと、ブランドもののバッグから荷物を取り出し、古くから愛用しているバッグへと入れ替えた。そして出し忘れはないか2度確認し、となりに座っている乳母の雛乃に手渡す。

「ふう。面倒ね。雛乃、これでよくて?」
「はい。十分でございます」
「おかげで学校では贅沢三昧の成金お嬢様だわ。どうしても使わなくてはいけないの?」
「新品のままでは盗品ではないかと疑われます。それこそ玉木家の恥でございましょう。それに使っていることをアピールしておかなくては、一体何のためにブランド品を買っているのかと、ご両親に疑われてしまいます。アリバイ作りのためにも学校の皆様には証人となっていただかねば」
「たしかに、雛乃の言う通りね。わかりました。目的のためですもの。少々のことは目をつぶります」

 えりかの財布には、現金は1円も入っていない。カードが複数枚入っているだけである。内訳はいくつかの会員証と、国際ブランドのプラチナカードが4種。それは、未成年が購入を許されない品を除けば何でも自由に買ってよいと、カレン女学院への入学祝いに父からもらったものだ。
 「何でも自由に買ってよい」と言えば聞こえが良いかもしれないが、クレジットカードで買い物をすれば、何時、何処で、何を買ったか、全てが記録に残され両親に報告される。しょせんは管理された自由。えりかにとっては動物園の檻の中と何ら変わらない…。
 だから秘密の買い物をするためには、プラチナカードは使えない。どうしても足の付かない現金が必要だった。しかしえりかは玉木家のお嬢様。働いて収入を得るわけにはいかないし、犯罪に手を染めるなど論外である。合法的に現金を得る方法を考えた結果、見つけたのがブランド品を買い取り業者に売ることであった。つまり、ブランド物のバッグなどをプラチナカードで購入し、中古ブランド品の買い取り業者に売って現金化するのだ。ぶっちゃけ、マネーロンダリングのようなものである。
 えりかのやっていることは犯罪ではないが、両親への背信行為に他ならない。そうまでして買わなければならないもの……。それは情報であった。

「これから売りに行って探偵さんとの約束の時間には間に合うの?」
「他のバッグはお昼のうちに売っておきました。この一品だけでしたら査定もさほどかからないでしょう」
「そう……。でしたらワタクシは少し眠ります。探偵さんを見つけたら起こしてちょうだい」

 そう言うと、えりかは後部座席に身体を埋めた。よっぽど疲れていたのだろう。雛乃が返事をしようと振り返ったとき、えりかはすでに寝息を立てていた。無理もない。昨日はハルピュイアの予想外の反撃に遭い、ダメージが抜け切れていないのだ。

「ごゆっくり……お休みください……えりか様」

 雛乃は我が子を見つめるように、優しく微笑んだ。

えりかの背信◆おしまい

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