PRECURE SQUARE capriccio
#01ENDパート S-13-1, S-13-4,

Scene13-1◆訪問者ローズ〜記憶(fifth day)

「ローズちゃんが片言の日本語を話すのは、もしかして相手を油断させるため?」

 ローズは指をパチンとならすと、突然流暢な日本語を話し始める。

「結果的にそうなっているかもしれないわね。でも違うわ。せっかく日本語を勉強したんだから、日常会話では魔法を使わないようにしてるだけ♪ 正体を明かしても問題ない時は、その限りではないけれどね」
「まあ、それは殊勝な心がけですね。
 ところで……魔法堂の新たなオーナーになったそうですけれど、どんなお仕事をなさるの?」
「表上は喫茶店でもやろうかなって思ってるけど…。正直、ちまちました仕事をするのは好きじゃないのよね。だから短い時間で大きく稼げる裏の仕事を本業にするつもりよ」
「裏のお仕事?」
「有り体に言えば『何でも屋』ね。危険が伴ったり、表沙汰にできない仕事を請け負うわよ。もちろん安くはないけどね」
「お見舞いに来てくれたのは、もしかして営業をかねてる……とか?(^^;」
「あったり〜〜(^^) ただし一回につき100万円以上の仕事は受けないけどね」
「100万円……。さすがに私のお小遣いでは依頼できそうにないわね」
「あら、それは残念。……でも、『姫巫女様』は藤原家の実質的当主なのでしょう?」
「ごめんなさい。そちらのお仕事は担当者に一任しているの。無断で私からローズちゃんに依頼はできないわ」
「おかまいなく。その担当者に私を紹介していただけるだけで結構ですわよ♪」
「う〜〜ん。紹介するにしてもローズちゃんの事は何も知らないし…。ローズちゃんはどんなことができるの? もしかして……空飛ぶお馬さんが破壊した美空市を直してくれたり……とか?」
「………ああ、あれね。あれは私じゃないわよ。私の友達……かな? まあ、私と同じ『アンノウン』には違いないけど。照れ屋だから名前は秘密ね」

 正確には『おジャ魔女ファファ』のやったことだが、ぽっぷの影武者故に表沙汰にはできない。さりとてローズは回復系の魔法が苦手なため、そっち系の仕事を依頼されても応えられないので自分の手柄にするわけにもいかなかった。

「秘密というのは……つまり、知りたければ情報料を支払えってこと?」
「え? あ、いえいえ。確かにお金は欲しいけど、これは本当に秘密なの。信用問題にかかわるしね」
「そう……。よかった。少し安心したわ」
「魔法堂のオーナーがお金に汚くなるのはしょうがないのよ。結果を出さないとオーナー権を剥奪されてしまうから。美空町の魔法堂であればなおの事ね」
「美空町の……? 魔法堂って他にもあるの?」
「え? ……え、ええ。世界中にあるわよ」
「あ……ああ、そうだったわね。ニューヨークにも魔法堂があったわ。今はマジョバニラさんがオーナーになってるって、ももちゃんから教えてもらったわ」
「…………」
「? なぁに?」
「なんでもないわ。今でも仲良しなんだなって思って…」
「ええ、そうよ。どれみちゃん、あいこちゃん、おんぷちゃん、ももちゃん……。みんなそれぞれの道を歩みだして、会う機会は減ってしまったけど、今でも大切な私のお友達…」

 はづきは魔法堂のことを忘れている。もしかしてどれみ達の事も忘れたままなのだろうか。
 『姫巫女』がお勤めをするたびに一時的な記憶喪失に陥るという話は、人間界に訪れる前に聞かされていた。マジョローズは、記憶を失ったはづきが羨ましかった。たとえ一時的にでも忌まわしい過去が忘れられたら、もっと違う自分になれたかもしれないから………。


Scene13-2◆訪問者ローズ〜過去視(fifth day)

「街を直してくれたのがローズちゃんなら、これを直してほしかったのだけれど……」

 はづきはそう言いながら部屋の勉強机に向かうと、箱を持って戻ってきた。ふたを開け、中身をローズに見せる。中には真ん中で半分に裂かれた薄い本が入っていた。

「カリスマ……配達…員……?」
「小学5年生のときに、学芸会でやった演劇の台本よ。私の大切な想い出の品なの」
「ちょっといいかしら」

 ローズは真っ二つの台本を上下とも手に取ると、両方の裂け目を見つめる。手で引き裂いたにしては綺麗すぎ、刃物で切ったにしては汚すぎた。どうやればこのように引き裂けるのかローズには皆目見当もつかなかったが、それ以上に気になったのは、どのような経緯で台本が引き裂かれたかであった。

「これは……どうして引き裂いちゃったの?」
「私がやったんじゃないわ。多分………」
「多分? 身に覚えがあるの?」
「それが判らないのよ。でも、ずっとお部屋にしまっていたから、自分以外にできるとも思えないし…」
「じゃあ、いつこうなったか判る?」
「それもよく判らないの。気がついたときにはこうなっていたから」
「ふうん…ちょっとしたミステリーね。自然にこうなるなんてあり得ないし、はづきちゃんの手でできるとも思えない。第三者の仕業だとして、警戒の厳しい藤原邸に誰にも気づかれずに潜入したとなると、かなりの凄腕か特殊能力の持ち主ね。でも目的は何かしら。はづきちゃんへの嫌がらせとも思えないし……」
「……………」
「気になるなら、何が起きたか確かめてみる?」
「どうやって確かめるの?」
「いわゆる『過去視』ってやつ。この台本自体が体験し記憶された、出来事を魔法で映像化するの」
「そんな事ができるの?」
「それくらい、魔法が使えれば簡単よ。はづきちゃんだって昔にやった事あるでしょう?」
「え……。え、ええ。そうだった……わね」
「………まあいいわ」

 ローズがパチンと指を鳴らすと、台本は映写機と家庭用サイズのスクリーンへと変化する。具現化されたイメージが古いのは、ローズの生まれた時代の影響だろうか。

「まあ、映画みたいね。これで過去を観るの?」
「ジャンルは何かしらね。私はミステリーかサスペンスを予想してるけど」
「台本が記憶した過去なら何でも観れるの?」
「もちろん観れるわよ」
「物がどうやって記憶するの?」
「曖昧な事はすぐに忘れてしまうし、印象的な事はいつまでも覚えている。人と同じよ」
「……もしかして、学芸会の時の記憶も観る事ができる?」
「これだけ使い込んでいるのだから、台本にとっても忘れられない記憶でしょう。観れるわよ」
「なら、そっちを先にみせてちょうだい!」
「いいけど……」

 ローズが再びパチンと指を鳴らすと、カーテンが閉まり、部屋の照明が消え、映写機が回り始めた。しかしいつまで経ってもスクリーンには何も映し出されない。

「これは……一体……」
「もしかして……映写機の故障?」
「魔法で出したのだから故障するわけない。もちろん私は、この程度の魔法を失敗させるようなドジじゃないわ。考えられるとすれば、この台本にはもともと記憶が無いか。それとも記憶を奪われたか……。でも、そんな事ってあり得るの?」
「状況が飲み込めないのだけれど…、私の台本は何も記憶していないってことなの?」
「いいえ、わずかだけど間違いなく記憶はあるわ。恐らくは引き裂かれた時のものね。観る?」
「他に上映作品が無いのなら、しょうがありません。観せてください」


Scene13-3◆訪問者ローズ〜意外(fifth day)

 それは実験映像にも見えた。台本に無数の糸が絡み付き、真っ二つに引きちぎられたところで映像が途切れる。時間にして30秒程度だが、身の毛もよだつホラー映像であった。

「今のは……もしかして……髪の……毛?」
「そう見えたわね」

 ローズには、二つの点において意外であった。一つは台本に残された記憶がわずか30秒しか無かったこと。そしてもう一つは、ホラーな映像に動揺のそぶりさえ見せないはづきの反応。
 はづきと言えば、お化けや幽霊のたぐいが大の苦手だったはず。『映画』の形で観ていたが、これははづきの部屋で実際に起こった出来事なのだ。にもかかわらず、はづきの反応は冷静だった。成長したという事なのか。それとも、記憶喪失と関係がある?

「でも、この映像では台本しか写ってないから、何がなんだか判らないわ。もっと俯瞰で見るような、全体を把握できるような方法は無いの?」
「あるわよ。これははづきちゃんの部屋で起きた出来事だから、台本とこの部屋の記憶をリンクさせれば、全体像はつかめると思う。でも、いいの? ちょっと怖いものを見る事になるかもしれないわよ」
「どのみち状況を把握する必要があるもの。だから大丈夫」
「OK。じゃあ、始めましょう」


Scene13-4◆訪問者ローズ〜混沌の神様(fifth day)

 ローズが魔法で時間を同期させると、リールに巻かれたフィルムが増える。部屋と時間を同期させた事で情報量が増えた事で、リールにはさらに、先ほどまで無かった日付のラベルまで現れていた。2007年12月15日AM2:12……これが事件の発生した日時であるようだ。
 映写機をスタートさせる。5…4…3…2…1…。スクリーンに現れるカウントが終了すると、再び台本が無数の髪の毛に引き裂かれる映像が始まった。スクリーンが真っ白になったかと思うと、続いて髪の毛が巻き付いたカードのようなものの映像が現れる。杖のようなものが描かれた絵札だ。端にはギリシャ文字で『ヘルメス』と書かれてあるのがわかる。今度はカメラが引き始め、画面に部屋の細部が見えてくる。カーテンが閉められた窓や勉強机。そしてカードに巻き付いた髪の毛の本体が現れる。女の子の後ろ姿だった。
 不思議な出で立ちの少女である。髪はツインテールで床を引きずるほど長い。服装はポンチョから2本の足がにょきっと生えているようで、他には何も着ていないように見える。両手を斜め下に広げているのか、ポンチョは菱形のように広がっていた。耳にはイヤリングがつけられており、宝石でも付いているのかキラキラと光っている。そして振り返った少女にローズは息をのむ。禍々しき眼光……。それはまるで蜘蛛であった。

 数々の修羅場をくぐり抜けてきたロ−ズにも、人並みに苦手なものはある。とりわけ虫は大の苦手であった。危険が無いとは判っていても、スクリーンを観ながら思わず後ずさりしてしまう。ところがはづきは動揺するそぶりも見せなかった。この映像を観て何も感じないのだろうか。作り物ならまだしも、これは過去に起きた現実の……しかもはづきの部屋で起きた事なのに……。かつて『おジャ魔女はづき』と呼ばれた魔女見習いの面影はみじんも無い。これが『姫巫女』の貫禄…ということか。

 蜘蛛娘は四角いカードケースらしきものを取り出すと、絵札を納め、何事も無かったかのように部屋から消え去り、同時にフィルムも終了した。上映時間はだいたい3分ほどだったろうか。

「これは……何? こんなものが美空市の闇を徘徊してるの?」
「この感じは………多分『触れ得ざる者』だわ」
「触れ得ざる……何?それ」
「私たち護り人は、彼女達になるべく干渉しないようにしているの。人命に関わる大事になった場合も、最小限の干渉にとどめる事にしているわ」
「ふうん。だから『触れ得ざる者』ね。…………それで、正体は何なの?」
「美空の里の……神様よ」
「い、今のバケモノが神様ですって!?」
「正確には、神様の分身ね」
「ますます訳が判らないわ。どういうことなの?」
「美空の里の神様は、地下奥深くで眠りについてるの。起きたら地球が大変な事になってしまうわ。だから地上に現れる時は、自分の力を小さく切り分けた分身を作るの。先日の空飛ぶお馬さんも分身のひとつだと思うわ」
「蜘蛛娘に天馬ちゃん……神様の分身は様々な姿をしてるってことなのね。それで神様が地上に現れる目的は何?」
「それは判らないわ。崇高な目的があるのかもしれないし、ただの暇つぶしかも…。いずれにせよ、いにしえの時代から続けられてきた神事であることに変わりないから、『姫巫女』である私は滞りなく執り行なわれる事を祈るのみよ。ただ……」
「ただ……何なの?」
「神事が執り行なわれるのは2年か3年先のはずだったのよ」
「そう」
「もう少し……」
「え?」
「もう少し、時間があると思っていたんだけどな……」

 はづきは寂しそうに微笑んだ。2〜3年の誤差なんて魔女にとっては微々たるもの。しかし人間にとってはそうではない。子供や年頃の娘にともなれば、なおのこと…。

「はづきちゃんに残された時間は、もしかしたら僅かかもしれないのね! これはいけないわ!」
「え? え、ええ」
「だったらなおの事、私を雇うべきねっ! 決して悪いようにはしないわよ。もちろんギャラははずんでもらうけどね♪」

 だけど同情はしない。したところで意味がない。ローズにできる事は、プロフェッショナルとして仕事を着実にこなす事だけなのだから。だけど、結果的に彼女の望みを叶える事はできるだろう。それが彼女の…藤原はづきの救いとなれば良いのだが。

★  ★  ★

 藤原邸を後にしたローズは、ふと空を見上げる。雨上がりというわけでもないのに、青空に美しい虹の橋がかけられていた。これもまた、美空の神様の仕業であろうか? 美しき空の里……か。
 今夜は『秋穂』と言う名の小料理屋で、はづきが紹介してくれた矢吹鬼という人物に会わねばならない。なんでも明日、ローズと同じ日に美空高校へ転校してきた桜田ふぁみが藤原邸に来るのだという。彼女の正体が判らないため、警備に万全を期す事になっているのだが、同時にローズの採用試験をかねる事になりそうだ。そのため、『護り人』の実行部隊の中核を担う矢吹鬼という人物に会い、明日の打ち合わせをする事になった。
 さて、昼休みがもうじき終わる。急いで学校に戻らなければ。指を鳴らすと、ローズの身体は瞬時に美空高校の屋上へと移動する。誰にも見られていない事を確認すると、ローズは何食わぬ顔で教室へと戻った。
 男がいて女がいる混沌の世界、人間界。多くの人外の者が住み着く混沌の街、美空市。様々な姿の分身を作り出す美空の神は、さしずめ混沌の神様だろうか。嗚呼、素晴らしきは混沌なり。男女共学の高校に転入して本当に良かった♪
 魔女界では決して味わう事のできない刺激的な毎日。ローズはワクワクが止まらない。


◆ ◆ ◆ ◆ 第1番・完 ◆ ◆ ◆ ◆


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