至宝の狂想曲 我は希望 

◆持ち腐れて切り札

 再び春風邸に戻ってきた妖精ファファには、二つの役目がある。
 一つ目は春風ぽっぷの影武者である。ぽっぷそっくりに変身することはこれまでも出来たが、5年もの厳しい修行を乗り越えた結果、限りなくぽっぷに近い思考と行動が出来るようになった。いざとなれば、ぽっぷの身代わりになって死ぬ覚悟もできている。もっとも、戦国時代のように命を狙われれているわけではないので、あまり意味の無い覚悟ではある。まあ心構えと言った所か。
 実際の影武者としての役割は、ぽっぷがプリキュアとしての戦っている事を家族に知られないよう、心配をかけないようにすることだ。ぽっぷが戦いで忙しい時、ぽっぷに代わって学校に行き、帰宅する。でも、その為には、ファファは自分の存在を徹底的に隠さねばならない。自分を知っているどれみには特に。知られてしまえば、影武者としての意味が無くなってしまうのだから。
 だけど影武者としての役目は、もとから持っていた能力をバージョンアップさせたに過ぎない。ファファが本当にスゴイのは、魔女見習いにお着替え出来ることだ。しかも、一級魔女見習いだけが使用を許されているリズムタップを使いこなせる。もちろんそれは、ぽっぷが一級魔女見習いの資格を持っていたからであり、影武者の延長線にある能力であったが、それでも、妖精が魔女見習いになるなど前例のないことなのである。
 しかし、影武者の役目が度々あるわけでもない。今は魔女見習いになっても魔法は使えない。影武者である以上、自分の存在を知られるわけにも行かないので、迂闊に外出も出来ない。共に魔女界から来た妖精ナージャも、たまにしか遊びに来てくれない。一緒に留守番をしているゼピュロスは、ぽっぷが戻ってくるまで眠りっぱなしで、話し相手にもなってくれない。クルリンコールでゆき女王様と世間話に花を咲かせるなどもってのほか。要するに、ファファは暇なのだ。

 そんなファファに与えられた任務が、魔法の実を増やすことだった。ピコットポロンやクルリンコールのエネルギー源となる魔法の実は、植物のように栽培して増やすことが出来るのだ。ファファは人間界に訪れて間もなく、ペガソスが破壊した街並みを修復するために魔法の実をほとんど使ってしまった。節約すれば何回かは使えるが、まさかの時に使えないでは意味がないので、今は温存しておくしかない。魔法の実の増産は急務なのだ。とはいえ、ファファに出来ることは少ない。鉢植えの世話をする以外無いのだから。
 ファファは一つだけ残していた魔法の実を、ぽっぷが用意した鉢植えに植える。人間界の風土は魔法の実には適さないのだが、どれみ達が育てた時は魔女界の土や肥料が使えたので何とかなった。それでも実がなるまでに10ヶ月はかかった。今回は魔女界の支援は一切期待できないが、代わりにぽっぷに憑依する花の女神クロリスの加護がある。バラの花束を未だに枯らすことなく保たせているのだから、魔法の実の成長にも良い影響を与えるはずだ。
 その予想は見事的中した。……というか、的中しすぎた。

「おはようファファ♪」
「おはようございます。ぽっぷちゃん♪ 見てください! 魔法の実からもう芽が出ましたよ!!」
「え! 昨日植えたばかりなのに、もう芽が出たの?」
「スゴイです! 魔女界で植えてもこんなに早くはないですよ! これも全てはぽっぷちゃんのご加護ですね♪」
「ファファが一生懸命世話してくれたおかげだよ。それと私に憑依してるクロリスのおかげかな」
「同じ事ですよ♪ 私はぽっぷちゃんのコピーですし、花の女神様が力を出せるのもぽっぷちゃんに憑依しているからですし。同じ事です♪」

 そんなやりとりを、ゼピュロスは鳥かごの中から嬉しそうに微笑みながら見ていた。愛する妻が褒められているのだ。嬉しいに決まっている。

「あ、おはようゼピュロス」
「おはようございますゼピュロスさん」
「おはようだピュ♪ 二人とも楽しそうで何よりだピュ♪」
「ところでさ、ゼピュロス」

「なんだピュ? クロリス」

「そんな朝っぱらから、やらしそ〜な目つきで見ないでくれる?」
「べ、べ、別にやらしい気持ちで見てるわけじゃないピュ! 誤解だピュ!」
「いやいや、ぽっぷちゃんにメロメロな殿方に、それは酷というものですよ。ぽっぷちゃん♪」
「ふ、二人とも、そんなヘンタイを見るような軽蔑の眼差しはやめてくれピュ! オレはそんなご褒美はいらないピュ〜〜〜(><)」

★  ★  ★

 魔法の実がなる木は、それからも常識ではあり得ないスピードで成長していく。そして一週間が経過した。

「おはようファファ♪」
「お、おはようございます。ぽっぷちゃん」
「……どうしたの? 魔法の実がなる木に何かあった? もしかして実がなったの?」
「あ、はい、え〜っと。なるにはなったのですけど……。少々問題が(^^;」
「問題? 実の出来が良くないとか?」
「それがその…、どうやらぽっぷちゃんの中の花の女神様、はりきり過ぎちゃったみたいです」

 そう言ってファファは鉢植えを見せる。ぽっぷは驚愕した。確かに木には実がなっていた。しかし魔法の実とは形が違う。

「これって……たしか、ロイヤルシードだよね?」
「はい。10年に一つ出来れば良い方だと言われるくらい、特別な実です。それがこの短期間に2つもなるなんて、奇跡としか思えません」
「すごい…。すごいけど…。困ったね」
「自給自足の思惑が外れてしまいました。リースポロンなんてありませんし…。これでは宝の持ち腐れです」
「換金するとしたら魔女界だよねぇ。でもファファは表だって動けないし」
「マジョローズさんを頼るしかありませんけど、ぼったくられてしまいそうです(^^;」
「ううん、むしろ口止め料で済むなら安い方だよ。産地不明のロイヤルシードを正規のルートで換金するのは難しいと思うし」
「なんだか、麻薬か偽札の取引みたいですね(^^; すみません。私が表に出れば全て解決しそうなんですけど…」
「ファファ、そんな事は考えないの。あなたは私のとっておきの切り札なんだから」
「はい…」

 いざと言う時にはファファがいる。これがぽっぷにどれだけ心強いことか。同時に心は痛みを訴える。ファファの才能をこのまま埋もれさせて良いのかと。しかし、現状維持こそがベストな選択なのだ。魔法アイテムを持ち出した事が表沙汰になれば、ファファは魔女界の裏切り者として切り捨てられるのだから。

「大丈夫です。ぽっぷちゃんが本当にピンチの時にお役に立ててこそ、本当の切り札。平穏な今は、むしろ宝の持ち腐れであるべきなんです。そうでなければ切り札である意味がありません!」
「あれ〜? 自ら宝物宣言? やけに自信満々じゃん。そんな事言ってると、本当に頼っちゃうぞ〜♪」
「当然です♪ その時が来たらビシバシ頼っちゃってください♪」

 そんなやりとりを、ゼピュロスは鳥かごの中から嬉しそうに微笑みながら見ていた。以下略…。

「ふ、二人とも、そんな生ゴミを見るような侮蔑の眼差しはやめてくれピュ! オレは訓練された紳士じゃないピュ〜〜〜(><)」

★  ★  ★

 その夜のこと。ファファは誰かの気配に気付いて目を覚ました。辺りを見回すと、髪の長い少女が魔法の実のなる木の側に立って何かしているようだった。髪の長い少女……というと、春風家にはどれみしかいない。
 どれみちゃん? もしかしてバレた? ファファは目をこすってもう一度見る。だが、そこにいたのは間違いなくぽっぷだった。てっきり髪を下ろしたどれみがいたのかと思ったが、どれみとぽっぷでは身長が違う。どうも寝ぼけていたようだ。

「起こしちゃった? ごめんねファファ」
「いえ、そんなこと…ないですけど……」

 ぽっぷはファファにいつもになく優しい微笑みを浮かべると、ベッドに戻って横になった。ファファも横になり目を閉じる。しかし漠然とした違和感がファファを眠らせてくれなかった。なんだろう…。これは…。花の匂い? ファファは起き上がると改めて部屋を見渡す。夕方には弱っていたはずのバラの花束は、再び活き活きと返り咲いていた。魔法の実のなる木からは、早くも新たなつぼみが出て来ていた。ぽっぷは寝息を立てて安らかに眠っている。ファファは夢を見ていたのだろうか? それとも今のが現実だとしたら……。

「もしかして……今のって……花の女神様?」

つづく?


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